「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「原発 ホワイトアウト」

2014年01月26日 | 読書コーナー

近頃、評判になっている「原発 ホワイトアウト」を運よく図書館でゲットできたので早速読んでみた。なぜ巷の噂になっているのか、ご存知の方も多いと思うが念のため紹介しておこう。

                     

著者の名前が「若杉 冽」(わかすぎ れつ)とあるが、これは仮名で裏表紙の著者略歴にはこう書いてある。

「東京大学法学部卒業、国家公務員試験1種試験合格、現在霞が関の省庁に勤務」

そう、現役の高級官僚が覆面作家となって書き上げたミステリーもどきの本というわけで、内容の方がこれまたショッキング。

現政府が“しゃにむに”なって進めている「原発の再稼働」に対して、原発の持つ脆弱性を明らかにしたうえで「はたしてそれでいいのか」という、いわば内部告発に近い本だから話題を呼ぶのも当然。

現在「犯人探し」が躍起になって行われている模様だが、杳として行方が知れないところも面白い。

ざっと、目を通してみたがけっして偉ぶって言うわけではないのだが、端的に言えばやはり素人作家が書いた印象はぬぐえないと思った。

全体的に文章が硬いうえに、何といっても登場人物の掘り下げが浅いし愛情も感じられないので読む側としても感情移入が出来ずあまり面白くない。しかし、さすがにお役人だけあって、物事の的確な把握や事実の描写力には並外れたものがある。

たとえば、官僚(行政府)と国会議員(立法府)との密接な関係や、電力会社と官僚、政治家との癒着などは「眼からウロコ」で、「成る程、そういうことだったのか」と頷かせるものがある。

一例を挙げると、選挙で落選した失意の議員がいるとする。よく、たとえに言われるのが「猿は木から落ちても猿」だが、「代議士は木から落ちたらタダの人」なので、今後の生活の心配までしなくてはならない。

そういう元代議士の中で再度選挙にチャレンジしそうな有力な人物に対して、とある電力関係者がこっそり忍び寄り「女子大の非常勤講師の口があります。週に1~2度講義をしていただければそれなりの報酬は保証します。」といった具合。

まさかの復活の場合に備えてちゃんと先行投資をしておくというわけだが、こういう議員が次の選挙でもし当選したりしたら電力会社に恩があるので、言いたいことも言えなくなる仕組みにちゃんとなっている。

こういう裏事情は一般人には皆目見当がつかないので随分参考になる。

それからもう一つ。

新聞の一面又は二面の裏の片隅にひっそりと「首相の動静」(朝日新聞の場合)という欄がある。

時の最大権力者である首相が「何時何分にどういうお客と会った」とか、「どこそこに行った」とか、細かい動きが記されている。興味があるのでいつも必ず目を通しているが、夕食などはよく「秘書官たちと会食」と記されている。

本書によると、これは額面通りに受けとったら大間違い。実は、こっそり抜け出して政財界の有力者とか、表に出すのが“はばかられる”人物との会食が多いとのこと。

本書のストーリーの中で事例として挙げられているのは、首相と検事総長との会食。

三権分立の建前上、行政府と司法府のトップ同士の会食だからこれはとても穏やかな話ではない。同席したのは資源エネルギー庁の高官で、懇談の目的は原発に強硬に反対する某県知事のスキャンダルを暴きたてること。ただし、もちろん個人名を挙げての直截な話はいっさい出ない。

首相から「現在の日本経済における原発の必要性」を大所高所から話すだけだが、それでも受け取る側は会食の意味と時節のタイミングを踏まえて総理の意を忖度(そんたく)し、以心伝心で通じるというわけ。

とまあ、こういう具合に一般庶民にはとても窺い知れない水面下の話が満載なので、こういう内容に興味がある方は一読されても面白いと思う。

最後に、原題の「ホワイトアウト」の意味だが広辞苑によると「極地一面の雪の乱反射のため凹凸・方向・距離が不明になる現象」とある。

巻末では、“ある工作”によって全電源喪失が起き、それによってメルトダウンを起こす原発、ひいては日本崩壊~ホワイトアウト~のシナリオが準備されているが、本書によって改めて「原発再稼働」に対する考え方が深まることはたしかである。

原発再稼働に対する短期的な見方「原油などを購入するために大量の国富が流出しているのを何としても阻止しなければ」と、長期的な見方「国富の流出どころではない、安全性を考えて原発即時撤廃だ」のどちらを国民は選択したらいいのだろうか?

これはあくまでも私見だが、原発即時撤廃には別の要素もあるように思う。たとえば、もしそうなると大学の原子力工学科の学生が極端に減ってしまって人材が枯渇し原子力技術の継承が出来なくなる恐れがありはしまいか。

領土紛争などの国の外交力の裏付けとなるのは何といっても軍事力だが、「その気になれば原子爆弾はおよそ1年あれば出来る」(自民党某有力政治家)そうで、これは物騒な話だが現在持ってはいなくてもいつでも原爆を作れるという日本の科学技術力と環境は有形無形の力になってはいないのだろうか。

それに万一、領土の局地紛争で一敗地にまみれたとすると、国民が一気にヒートアップして「原爆を作れ」なんてこともあり得ると思う。太平洋戦争前夜の国民の熱気ぶりはまだ遠い過去の話ではない。

公には絶対に「口が裂けても言えない」本音の部分が原発問題にはまだ隠されているような気がして仕方がないのだが、これは取り越し苦労なのかな(笑)。


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