第二回WBCの一次リーグがいよいよ開幕。例年よりひと足速く本格的な野球シーズンの到来である。
日本は3月5日の中国戦(4対0)で順当に勝利。問題は苦手とする韓国戦(3月7日)だったが何と14対2のコールド勝ち。
野球評論家も予測してないような圧倒的な勝利だった。「勝因は?」といえばまず原監督の采配、それも選手起用がバッチリ当たったこと。
16打席無安打と絶不振だったイチローを信頼して起用し続けたこと、中島、青木の2,3番コンビの活躍もあったが、原監督の勝利後インタビューにもあったように大きかったのは初回に、この日6番で初スタメンに起用した内川選手(大分県出身)の2点タイムリー。
1点先取後のノーアウト1塁、2塁で4番村田、5番小笠原があえなく三振で2アウト。このまま1点で終わるか、それとも追加点が入るかはその後の試合展開に大きな意味を持っており実に大きな勝負どころである。
ここで期待の内川選手登場。「左殺し」の異名をとる内川選手は昨2008年のシーズンでも対左投手には4割5分前後の打率を挙げており、この数字は得点圏打率(走者2塁、3塁時での打率)と同じくらいで「勝負強さ=左殺し」をも証明している。
韓国の左腕の好投手、昨年の北京オリンピックでも散々苦しめられた「金投手」のスライダーをカウント2:2から見事に引っ張り抜いて3塁線を破る2塁打で2点を追加したのはまったく同慶の至り。
この日同じ球団(横浜)の村田が試合を決定付ける3ランホームランを打って試合後のインタビューで「野球人生で最高の瞬間」と語っていたが、後輩の内川がやってくれたので、先輩の自分もやってやろうと奮い立ったと言っていたのが印象に残る。
昨年の北京五輪についての内川選手の話。
「壮行試合でセ・リーグ代表として日本代表チームと戦ったんですが、代表の選手たちは普通じゃ考えられないようなミスをしていた。それだけ日の丸を背負う重圧はすごいんだなァと感じました」。
自分に言わせると、いわば「オールジャパン」のユニホームを着て野球をするのと、単なる企業の看板を背負って野球をすることの違い、結局「名誉と利益」の比重になるんだろうが、選手たちの緊張感は察するにあまりある。そういう中、全国民が注視する緊張感に包まれたチャンスでの初打席で実力を発揮できるとは大したもの。
昨年「何とかチャンスがあれば代表のユニホームを着てみたい。日の丸を背負った立場で野球をやってみたいという意識は強いですね」と語っていた好漢、内川選手。
本年の1月1日付けのブログ「2008年セの首位打者・内川選手」のタイトルで彼の巧まざる打撃センスの良さを喧伝したがうれしい限りである。
「国威の発揚」というとおおげさだが、何かと暗いニュースが続くこの世相に「おくりびと」のアカデミー賞(外国語部門)受賞に続いて、日本チームのWBCでの健闘を祈らずにはいられない。
いよいよ二次リーグでのアメリカではB組の2チームと準決勝進出を目指して激闘が始まる。今のところ、キューバとメキシコ(予想)そして日本、韓国との四つ巴。
キューバ・チームの強さはこれまでの国際試合で計り知れず、メキシコだって大リーガー14名による強力チーム。まったく楽観視は禁物で予断を許さない。
日本チームは「投手力は一級」だと思うが問題は打撃陣で、体格を含めてやや非力なのは否めない。結局「守備力」と「機動力」、そして「チームワーク」といった持ち味を発揮できるかどうかだろう。
最後に、再掲になるが昨年(2008年)のセ・リーグ首位打者として3割7分8厘(右打者として歴代最高打率)、安打数(189本)、得点圏打率4割4分9厘と主要な打撃タイトルを総なめにした内川選手の「打撃開眼のコツ」について述べておこう。
~驚くべき打率です。昔”打撃の神様”と呼ばれた川上哲治さんが「ボールが止って見えると語ったことがあります。そんな感じですか?~
「春先、調子が良かったときにはそれに近い感覚がありました。ほら戦争映画なんか観ていると相手に向かって機関銃を構え、カーソルがピピピピッと合っていく。あんな感じなんですよ。しかも自分が合わせているのではなく、ボールの方からカーソルに入ってきて、焦点がピタッと合う。”これは打たなきゃ損だろう”という感じでバットが自然に出てくる。面白い感覚を味わうことができました。逆に打たなくていいボールは、ボールのほうでカーソルから外れていってくれる。不思議な体験でした。」
~そうした感覚は長続きしない?~
「そうですね。”こういう感覚って凄いな、面白いな”と感じた瞬間には、もうなくなっていました。思うのですがバッティングって(コツを)摑んで放し、放しては摑むその繰り返しだと思うんです。いい結果を残すためには、摑んでいる時間をなるべく長く保たなければならない。自分の中で大事にしたい感覚を見つけることが出来たのが最大の収穫だったと思っています」。
今朝(3月9日)の朝刊(地元新聞)では、韓国戦の活躍で一躍脚光を浴びた内川選手に米国のメディアから取材があり、大リーグ挑戦への意欲を問われて「行ってみたいという気持ちがないと言えば、うそになる」と答えて、「球場とか雰囲気を味わってみたい」と渡米が待ち遠しそうだったという。
彼は、たしか横浜入団(ドラフト1位)から8年経過しているのでフリーエージェントはもうすぐのはず。今後の活躍が楽しみ。
追伸(3月10日)
3月9日の韓国戦では心配したとおり打撃陣の不振で完敗。得点差は1点だったが試合内容はそれ以上の感があった。韓国のバッターは体格がいい上に何だか威圧感があるのに比べ日本のバッターは・・・。一方、投手陣は良かったので長所と欠点が両方見えた試合だった。「投攻守」のうち「功」の奮闘がないと勝ち抜いていくのはやはり難しい。