科学的社会主義の創出者であるエンゲルスの未完の草稿を本にしたものである。
手元に国民文庫版があったので、久しぶりに目を通してみた。
100年以上も前の自然科学の時代で、ものの考え方、科学的な見方を「弁証法」という見地で展開している。
自然科学を解説するのではなく、その思考過程をみている。
未完とはいえ、今でも非常に参考になる。
科学を志す人は一度は読むべきものではないかと思う。
序論では近代の自然探求を、「古代人の天才的な自然哲学的直観」「最高度に有意義であっても・・・アラビア人たちの諸発見」を経て、ドイツの宗教改革、フランス人のルネサンス、イタリアのチンクエチェントなど、近代への巨大な歴史的転換へと、その外観を端的にのべている。
中世の「化石化した自然観」の突破口を開いたのは自然研究者ではなく、カントという一人の哲学者であった、と述べている。
20世紀初頭の「物理学の危機」を突破したのは自然科学者ではなく、革命家のレーニンであり、その哲学的探究であったというのもうなづける。
「反デューリング論への旧序文」では、カントからヘーゲルにいたるドイツ古典哲学≒観念論的弁証法にふれている。
「神霊界での自然研究」では当時流行していた神霊界や霊媒師にとりこまれた科学者を痛烈に批判したものだ。
この問題は周期的にブームが起きるから、今でも十分通用する。。
その後「弁証法」について10ページにわたって展開している。
第2分冊では科学史や科学と哲学、弁証法、そして数学、力学、物理学、化学、生物学と縦横無尽に弁証法を語っている。
150年前の古い科学だからという見地で読んだらダメである。
あくまで思考の展開、考え方を学ぶものである。
そういう点で、まったく古さを感じない。
科学の道を歩もうとする人たちの導きの書だと思う。
追記
2冊目の「弁証法」についての章は、断片的な草稿のままだが、物事をどう考えるかのヒントがある。
動かすことのできない境界線
量から質への転化
部分と全体
同一性と区別
偶然性と必然性
抽象と具体性
弁証法的論理学
そしてこの節の最後にカントの「物自体」にふれている。
非常に頭が柔軟でないと理解が難しいし、弁証法の豊かな内容がわからない。
次の「数学」も読むと圧巻である。
不動にみえる四則演算
ゼロ
正負
虚数
微分
・・・など、弁証法の思考について語っている。
さらに
力学と天文学
物理学
化学
生物学
と続く。
これらは150年前の科学の水準で書かれている。だからこそ、考え方の、思考の方法、いわゆる「弁証法」を理解する上で大切だと思う。
読めば読むほど、もっと若い時に集中して勉強しておけばと思うこのごろだ。
最近、物理学における量子力学の「観測問題」を利用して、新たな観念論、スピリチュアル、宗教論などを発信している人たちがいる。
再び20世紀初頭の「物理学の危機」と同じ状況をつくりだそうとしている流れがある。
60年前に物理学者の坂田昌一さんは、量子力学会の「実証主義哲学」や「マッハ主義」の影響に警鐘をならしていた。(素粒子論と哲学-湯川理論30周年を記念して)
人間の意識と自然界にたいする考察、改めてエンゲルスの未完の「自然の弁証法」は重要だと思う。