釣り界の文壇での八木さんのことは多くの皆さんがご存じと思いますが、
知らない方はこの世界の潜りと言わざるを得ない。
この、だぼ鯊の戯言(たわごと)は長く全関西の機関紙いそつりに書かれていたものです、
当時の会員さんは読まれておられたことと思いますが、もっと一般の方々にも読んでもらいたく
八木さんの許可を得て掲載しているものです。
今回は以前私も書かせてもらった、伝説の人、豊中の森岡氏の話です。
「けんもん」はUMA
だぼ鯊の戯言(たわごと)⑦
八木禧昌
釣りはロマン…言い古されたフレーズです。到底叶えられそうにない夢や冒険にあこがれるのがロマンとすれば、クエやイシダイの超大物を追い続ける「磯釣野郎」の心意気もまたロマン以外の何物でもないでしょう。と言えば、全関西磯釣連盟屈指のロマン男、伝説の離島遠征釣り師・故森岡秀泰(治)さん=OAC=を措いては語れません。でも、ちょっとお待ちを。森岡さんのロマンの対象は「魚」にとどまらなかった、と言うのが今回のお話です。
「けんもん」はUMA
森岡さんは類希なる強靭な精神力と実行力の持ち主でクエ、イシダイ釣り師の夢=全日本無人島岩礁処女登磯=をロマンに終わらせず、およそ十年の歳月をかけ自らの手で現実に手繰り寄せた荒磯界の、言うならばラストサムライ。
その彼をして、九三歳で生涯を閉じるまで、捉えようとしても、スルリと手から抜け、なかなか現れず、容易に近づけなかったのが奄美大島に棲む謎の生物「けんもん」だったのです。
森岡さんが、けんもんを知ったのは民俗学者柳田國男の著書「日本の妖怪」で「奄美大島の妖怪、眷門(けんもん)は樹の上にいて人を襲う」の記述でした。もともと科学で説明のつかない超自然現象に興味のあった彼は荒磯釣りで奄美を訪れるたびに「けんもんの話」の取材、収集に意欲的に取り組んだ。その結果、「けんもん」の数々の目撃談、遭遇談を収集、柳田國男が「妖怪」として位置付けた「けんもん」は、物の怪や魔物などとは違い、多分に実在性がありながら、決定的な証拠として確認されていない、例えばヒマラヤの雪男と同じようなUMA(Unidentified Mysterious Animal)=未確認不可思議動物=ではないかと言う思いに到達するのでした。
例えば森岡さんの収集した奄美大島宇検・屋鈍でのある女性の目撃談はこうです。
《夜明け前の薄明に、屋鈍の浜の上の山腹の道を歩いていてふと砂浜を見下ろすと、不思議なものが目に映った。ちょうど招き猫が後ろ足で立ち上がり、前脚でおいでおいでと沖の海に向かって誰かを引き寄せているような格好で、チョコチョコ歩いていた。やがて岩角に消えたが、不思議に思って砂浜に下りあとを追うと、あっと驚いたのは、その足跡。
それはまるで「すりこ木」で押したようなくぼみで、爪痕もなく、二十センチほどの間隔で、山に向かって「一直線」だったのが強烈な印象として残っている》
森岡さんの数多の取材リポートは紙数の関係でこれ以上書けませんが、ここに取り上げた「奇異な足跡」は、場所や時、人を違えて複数の共通項をなしており信ぴょう性が極めて高い情報です。ほかにも多くの共通項があり偶然とは思えません。いつの日か森岡版「けんもんの話」を小冊子にまとめたいと考えています。
さて、世界自然遺産登録推進に取り組む奄美では、伝説のけんもん(現地ではケンムン)をとおして、奄美大島の自然や文化に目を向けるきっかけを作ろうと平成二十三年から毎年夏休みに「ケンムンふぇすた」 を実施、小学生から一般までを対象に「ケンムン」を描いた作品を募集するなど「けんもん」のロマンを風化させない様々な取り組みが為されています(奄美パーク←検索)。その意欲は頼もしく、とても嬉しいことです。(イラストも・からくさ文庫主宰)
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