佐藤功の釣ったろ釣られたろ日誌

釣り・釣りの思い出・釣り界のこと・ボヤキ.etc

だぼ鯊の戯言(たわごと)八木禧昌

2020-04-05 19:44:58 | 日々の思い

 ヒゲソリダイ

 

 ヒゲダイ、という魚が、南紀の磯にいるというのを教えてくれたのは、全関磯連・大阪磯釣りクラブのHさんでした。昭和30年代の話です。

 そのHさんが、串本大島樫野崎で釣りあげたという、それは見事な自慢の魚拓を拝ませてもらいました。全長80センチ、下あごにたくわえた髭まで、見事に直接法で具現されており、頭部から背中にかけての盛り上がりのカーブは、後年、お目に掛かったスポッテッド・ナイフという熱帯魚さながら、きわめて特徴的だったと覚えています。

 この魚の髭は、普通に髭をもつ魚、例えばウミヒゴイとかヒメジとか、ナマズ、ゴンズイ、コイなどとは明らかに異質で、密生しているのです。ビッシリと……。

 立派なヒゲですね、と驚く私に、Hさん、実は、私がこれを釣ったその日、磯から上がると、この魚を釣ったのを聞いた、樫野地区の土地の古老たちが集まってきて、口々に「このイオはな、昔(明治23年=1890年)、そこの磯で座礁、沈没したトルコ軍艦の遭難事故で亡くなった軍人さんの生まれ変わりや」、と言うので、大変驚きました、と。たしかに、そう言われてみると、オスマン帝国のむくつけき海軍軍人が蓄えていたであろう顎鬚と、イメージが一致するではありませんか。「なんだか、釣り上げて、悪いことをしたような気になりましてね…」と述懐するHさんの顔が、今もまぶたに浮かびます。

 遭難した巡洋艦「エルトゥールル号」(2344トン)の乗員は、下士官及び水兵、その他合わせて650余名。樫野住民の献身的な救助活動で、69名が救助されたが580余名が海の藻屑と消えたのです。

いまや、皆様周知のことなので詳しくは省略しますが、この史実がご縁でトルコと日本の友好関係が続き、昨年11月、安倍晋三首相のトルコ訪問では、当時の軍艦の乗組員の子孫と懇談、日本の官民を挙げた対応は、日本とトルコの友情の原点であると再確認した、と報ぜられたことは記憶に新しいところです。

 さて、このユニークな顔付きのヒゲダイ、昭和40年代ころは、しばしば磯釣りで大物が釣り上げられていましたが、最近はほとんど大物を釣った話を聞きません。

 少し以前は、和歌山県立博物館・水族館コーナーの大水槽「黒潮の海」の、水底で、岩礁に寄り添うように泳ぐ地味な色合いの大型ヒゲダイが見られたのですが、今は残念ながら姿がありません。

 ところが、代わりに「ヒゲソリダイ」2個体が、コーナーの南紀の海水槽で見ることができます。

 この魚、ヒゲダイ属の魚でヒゲダイのごくごく近縁。コショウダイや、セトダイ、コロダイなどと同じイサキ科です。イサキ同様、食味は「極上」と、図鑑にありますが、僕は試したことがありません。それにしても、この和名、なんとユニークなネーミングでしょうか!水槽を下から覗くと、ほんとうにヒゲ剃りたて、そのもので、そった跡がザラザラしているのが確認できます。

 どなたか存じませんが、ゴッドファーザー(名付け親)のウィットとユーモア精神に乾杯!

 ご興味がございましたら、ぜひ一度、和歌山県立博物館で、髭剃りたての「オスマントルコ海軍軍人」さんと、ご対面ください。

(からくさ文庫主宰)

 

八木禧昌(イラストも・<wbr />からくさ文庫主宰)

 

 

 

 

 



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