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♪「氷壁」井上靖著 新潮文庫
この秋両親と上高地や穂高に行って、改めて「氷壁」を読み返したくなった。
先日の「ウルフガイ」と同様、昭和30年代初頭を舞台とした物語。
登場する職場や街角の模様、交わされる会話、主人公たちの恋愛観や登山に対する考え方など、はっきり言って相当に古臭い。
でもその情熱とか想いとかは今でも新鮮に感じるし、穂高そのものが活き活きと描かれて、自分も一緒に山を登っている気持ちになる。
また出てくる地名がこの前我々が訪れたばかりのところだ。
主人公の魚津たちが穂高に向う道程は、松本、島々、奈川渡、沢渡、釜トンネル、大正池、河童橋、明神・・・。
50年前の国道158号線の景色は多分今とさほど変わらないのだろう。
でも、親友を山で亡くし、遺体の捜索に向う魚津はどんな気持ちであの道を登ったのか。
穂高の東壁で、果たしてナイロンザイルは切れたのか?誰かが切ったのか?
その疑問に騒然となる世論と魚津を取り巻く人々。
そして魚津に惹かれる美那子やかおるの人間模様。
舞台は古いが、そこに描かれる人々の想いや山々の風景は、現在と変わることはない。
あぁ、穂高に登ってみたいなぁ~。
この本は昔読んだ気がしていたが、今回読んでみてはじめてであることに気がついた。
井上靖は結構好きな作家で「あすなろ物語」「敦煌」「楼蘭」「天平の甍」「おろしや国酔夢譚」など読んだので、てっきりこの話も読んだつもりでいた。
井上靖の文章はとてもきめが細かく写実が見事でかつ壮大。
まるで自分がそこにいるような気になる。
このところ「ウルフガイ」やIWGPシリーズなど軽いものばかりだったので、まさに日本の正統純文学を読んで久しぶりにたっぷりとした満足感に浸れた。
ウン、昭和の作家は偉大だね。素晴らしい!もっと読みたい!!
PS)
井上靖って、芥川賞は取っているけれど直木賞はない。
この「氷壁」なんて直木賞にぴったりだと思うけどね。
ところで、芥川賞が新人賞的で純文学に与えられ、直木賞は大衆文学みたいな分け方があるけれど、僕にはピンと来ない。
芥川賞と直木賞の違いはなんなんだろう?