4月18日、待ちに待った待望の新薬T-DM1(カドサイラ)の販売が開始された、ということはこのブログでも触れた。
そしてこの新薬について、何度もご紹介している朝日新聞・静岡版に連載中の渡辺亨先生のコラムで取り上げられていた。どれほど高額になるだろう、とは思っていたが、改めて数字を見て、唸った。以下、転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
がん内科医の独り言(2014年4月19日)
公助のほかに自助・共助も
■効く薬は高価
がん細胞の増殖に関わる分子だけを狙い撃ちし、正常細胞には悪影響が軽い「分子標的薬」が時代の花形です。
高性能だけに薬価も高額です。乳がん、胃がん患者の約2割に使われるハーセプチンの3週間ごとの点滴薬価は1回あたり13万円です。昨年発売のパージェタは1回あたり24万円、ハーセプチンとの併用で効果は高くなりますが、合わせた薬価は37万円です。
そして今月発売のカドサイラは、特殊な技術でハーセプチンに抗がん剤を結合させた結果、がん細胞の狙い撃ち効果を高めました。ハーセプチンが無効でも効果を発揮するため、1回あたりの薬価は47万円と決まりました。まさに天井知らず、うなぎ登りです。
治療長期化の場合、患者の医療費負担は莫大になります。しかし日本は国民皆保険の国、病院の窓口で払う自己負担額は、健康保険加入の場合は3割、高齢者は1割の場合もあります。月ごとの医療費が一定上限額を超えると、窓口でそれ以上は支払わなくてよい高額療養費制度もあり、日本はとても恵まれた国です。
健康保険は、加入者みんなが毎月決められた額を支払い、蓄積された基金から病気になったときに医療費として支払われる「共助」で成り立っています。
自分で自分の面倒を見ることが「自助」。元気なうちから自分のお金で生命保険に加入し、病気になった時の病院窓口支払い分や、病気で働けなくなった時の生活費をまかなうことなどが自助です。病気や失業で困った時、税金を元手に医療費から生活費まで国が面倒をみてくれるのが「公助」です。
高額薬価の話になるとすぐに公費負担を主張する意見を聞きますが、世界中見渡しても医療費の公費負担率10割の国は存在しないようです。今までは豊かだった日本も高齢化社会で医療費が膨らみ、一方で定職につかない若者がいる現状では公助は期待できません。自助、共助で乗り切って行くしかないのでしょうか? (浜松オンコロジーセンター・渡辺亨)
(転載終了)※ ※ ※
そう、最初の支払いの時には高くてびっくりしたハーセプチンも、3割負担で5万円弱ではあるけれど、今ではすっかり5,000円くらいの感覚で支払っている(というか、そう思わないとやっていられない。)。今は休んでいるにせよ、2008年7月から断続的に投与を続け、これまでの投与回数は170回を超えている。いやはや・・・思えばよくもこんなに何度もやったもんだ、という感じだ。
毎週1回投与していた頃は、当然3倍量ではなかったから5万円弱の支払いというわけではなかった(2万円強だったと思う。)が、ざっと計算しても10割なら1,500万円を優に超える。思わずため息・・・である。私の命も高額になったものだ、と苦笑いするしかない。もちろん、医療保険のおかげで自己負担は3割だし、高額医療費の還付もあるから、実際に支払っている額はそれほどではないにせよ、本当に共済組合には足を向けて眠れない。恵まれた立場であると思う。
同じく、今内服中の分子標的薬タイケルブ。規定量の4割に減量しているから1ヶ月の自己負担分は4万円ほどで済んでいるが、これも規定量どおり飲んでいたら、さらにはレジメンどおりゼローダも加えていたら、これまた月13万円ほどの支払いになる。つまり薬価は40万円というわけだ。
再発してしまえば、効いている限りエンドレスで続く治療。死ぬまでに一体どれだけ薬代がかかるか、想像だにできない。もちろん長く治療が続けられる、ということは、その分長く生きていられるということだから、その方が幸せなわけだけれど。さらに、新薬が使えるということは、また命が繋げる可能性が出てきたというわけだが、破格の開発費がかかっている新薬は間違いなく、高い。お金のことを言うのははしたない・・・と思いつつも、本当に綺麗事でなく、金の切れ目が治療の切れ目になりかねないな、と背筋に冷たいものが走る。
そして、このT-DM1(カドサイラ)に至っては47万円だという!3割負担で14万円超え。これが効いている限り3週間に1回続くのである。うーん、これでは一体何のために働いているのかわからなくなりそうである。いえ、もちろん治療費を自分で払いたい、という強い思いがあり、働くことで自分らしさをキープしているつもりなので、働かせて頂きながら治療が出来るということに感謝しているわけですけれど・・・。しゅん。
効くと分かっている薬である。命はお金にかえられない、というのが患者自身、家族の気持ちだろう。ここまで手厚く公費負担をして頂いていて、これ以上面倒を見ろ、とはとても声を大にして言えない。
新薬の開発は有難い。そして一人でも多くの患者さんたちがその恩恵を被ることが出来ますように・・・と思いつつ、台所事情を考えると、一筋縄ではいかないな、と思うのである。
そしてこの新薬について、何度もご紹介している朝日新聞・静岡版に連載中の渡辺亨先生のコラムで取り上げられていた。どれほど高額になるだろう、とは思っていたが、改めて数字を見て、唸った。以下、転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
がん内科医の独り言(2014年4月19日)
公助のほかに自助・共助も
■効く薬は高価
がん細胞の増殖に関わる分子だけを狙い撃ちし、正常細胞には悪影響が軽い「分子標的薬」が時代の花形です。
高性能だけに薬価も高額です。乳がん、胃がん患者の約2割に使われるハーセプチンの3週間ごとの点滴薬価は1回あたり13万円です。昨年発売のパージェタは1回あたり24万円、ハーセプチンとの併用で効果は高くなりますが、合わせた薬価は37万円です。
そして今月発売のカドサイラは、特殊な技術でハーセプチンに抗がん剤を結合させた結果、がん細胞の狙い撃ち効果を高めました。ハーセプチンが無効でも効果を発揮するため、1回あたりの薬価は47万円と決まりました。まさに天井知らず、うなぎ登りです。
治療長期化の場合、患者の医療費負担は莫大になります。しかし日本は国民皆保険の国、病院の窓口で払う自己負担額は、健康保険加入の場合は3割、高齢者は1割の場合もあります。月ごとの医療費が一定上限額を超えると、窓口でそれ以上は支払わなくてよい高額療養費制度もあり、日本はとても恵まれた国です。
健康保険は、加入者みんなが毎月決められた額を支払い、蓄積された基金から病気になったときに医療費として支払われる「共助」で成り立っています。
自分で自分の面倒を見ることが「自助」。元気なうちから自分のお金で生命保険に加入し、病気になった時の病院窓口支払い分や、病気で働けなくなった時の生活費をまかなうことなどが自助です。病気や失業で困った時、税金を元手に医療費から生活費まで国が面倒をみてくれるのが「公助」です。
高額薬価の話になるとすぐに公費負担を主張する意見を聞きますが、世界中見渡しても医療費の公費負担率10割の国は存在しないようです。今までは豊かだった日本も高齢化社会で医療費が膨らみ、一方で定職につかない若者がいる現状では公助は期待できません。自助、共助で乗り切って行くしかないのでしょうか? (浜松オンコロジーセンター・渡辺亨)
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そう、最初の支払いの時には高くてびっくりしたハーセプチンも、3割負担で5万円弱ではあるけれど、今ではすっかり5,000円くらいの感覚で支払っている(というか、そう思わないとやっていられない。)。今は休んでいるにせよ、2008年7月から断続的に投与を続け、これまでの投与回数は170回を超えている。いやはや・・・思えばよくもこんなに何度もやったもんだ、という感じだ。
毎週1回投与していた頃は、当然3倍量ではなかったから5万円弱の支払いというわけではなかった(2万円強だったと思う。)が、ざっと計算しても10割なら1,500万円を優に超える。思わずため息・・・である。私の命も高額になったものだ、と苦笑いするしかない。もちろん、医療保険のおかげで自己負担は3割だし、高額医療費の還付もあるから、実際に支払っている額はそれほどではないにせよ、本当に共済組合には足を向けて眠れない。恵まれた立場であると思う。
同じく、今内服中の分子標的薬タイケルブ。規定量の4割に減量しているから1ヶ月の自己負担分は4万円ほどで済んでいるが、これも規定量どおり飲んでいたら、さらにはレジメンどおりゼローダも加えていたら、これまた月13万円ほどの支払いになる。つまり薬価は40万円というわけだ。
再発してしまえば、効いている限りエンドレスで続く治療。死ぬまでに一体どれだけ薬代がかかるか、想像だにできない。もちろん長く治療が続けられる、ということは、その分長く生きていられるということだから、その方が幸せなわけだけれど。さらに、新薬が使えるということは、また命が繋げる可能性が出てきたというわけだが、破格の開発費がかかっている新薬は間違いなく、高い。お金のことを言うのははしたない・・・と思いつつも、本当に綺麗事でなく、金の切れ目が治療の切れ目になりかねないな、と背筋に冷たいものが走る。
そして、このT-DM1(カドサイラ)に至っては47万円だという!3割負担で14万円超え。これが効いている限り3週間に1回続くのである。うーん、これでは一体何のために働いているのかわからなくなりそうである。いえ、もちろん治療費を自分で払いたい、という強い思いがあり、働くことで自分らしさをキープしているつもりなので、働かせて頂きながら治療が出来るということに感謝しているわけですけれど・・・。しゅん。
効くと分かっている薬である。命はお金にかえられない、というのが患者自身、家族の気持ちだろう。ここまで手厚く公費負担をして頂いていて、これ以上面倒を見ろ、とはとても声を大にして言えない。
新薬の開発は有難い。そして一人でも多くの患者さんたちがその恩恵を被ることが出来ますように・・・と思いつつ、台所事情を考えると、一筋縄ではいかないな、と思うのである。