一年目漕手の和田です。
冬練に入り、漕艇部の拘束時間は著しく減った。
いや、これまでが異常だったというほうが正確なのだろう。
週六日の練習で土日は丸つぶれ、一週間でたった一日のオフは大学で講義のある月曜日だけだったのだから。
我ながらによくここまでやってきたと思う。
しかしその程度で満足していては全国の猛者を相手に立ち回ることは難しいのだろう。
アスリートの世界はそれほどに厳しいのかもしれない。
冬練でくすぶっているようでは尚更だ。
大学の講義、課題、アルバイト、友人との付き合い、そんな中で週六日でトレセンに通い、鍛える日々。
忙しいのはもちろんなのだが、納艇する前の忙殺スケジュールに比べれば、まだ余裕を感じることができる。そんな自分に誇らしさ交じりのため息が出る。
「週六日も活動がある部活」というだけで十分にきついのだろうが、この冬の期間は漕艇部員としてやってきた私には少し物足りないのかもしれない。
要するに持て余しているのだ。ただ単に漠然と抜けの悪い日々が続いている。
二週間ほど前、一年目の左合が退部した。
衝撃的だった。
部内の全体LINEに退部の旨のメッセージを送り、あっけなくグループを退会した。
その通知を携帯のロック画面で見たとたん、私の全身を途轍もない脱力感が襲い、徐々にそれは怒りに変わっていった。
「一言相談してくれてもよかったじゃないか。」
「毎日、日の出前から茨戸で一緒に練習していたじゃないか。」
「なんだって急にやめる必要があるんだ。」
漕艇部の日常は彼女が退部したその日からも滞りなく進んでいった。
来るものを拒まず、去る者を追わないことは普遍的な美徳なのだろう。
だがその光景は私にとってどこか冷たいように映った。当てつけの印象なのは明らかだった。
自分から去っていった者に必要以上にかまうことで幸せになる人は一人もいない。
それでもしっかり整理はつけておきたかった。
三日ほど前、左合と朝の五時まで酒を飲んだ。
私なりの区切りだった。
今までの生活のことや、いろいろな決断の理由、さらにこれからのことも、たくさん語らった。
漕艇部で過ごした密度の濃い時間、思いの丈を語りだすともう止まらない。
外が明るくなるまで、話は尽きなかった。
途中で投げ出した人間に栄光はやってこないのだろうか。
答えはNOだ。
確かにOB、OGを名乗ることはできないかもしれない。
しかしそんな懐の狭い定義のことを気にする必要は一つもない。
我々はいままでもこれからも仲間だ。部員のみんなが実際にそう思っている。
詳しいことは書かないが、彼女の話には納得がいった。怒りも失望もない。
ここで道を分けた。そしてそれぞれの新しいゴールに乾杯を。
彼女のこれからに期待する。なぜなら彼女を週六日で拘束するものはもう何もないのだから。
そして最後に一つ言えることは、私はまだ漕艇部の部員でいるということだ。