語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【官僚】数字のトリック ~消費増税の根拠~

2012年05月23日 | 社会
(1)消費増税の理屈
 財務官僚たちは「増税ありき」の数字の操作はお得意で、財政タカ派から出てくるペーパーには数字のトリックが何ヵ所もある。これは、自民党政権の下でも同じだった。
 2007年10月17日、経済財政諮問会議で次のような試算が提示された。会議で配布された資料「給付と負担の選択肢について」は、A4用紙で18枚。試算の期間は、2025年までの18年間。その時点の政府目標では、2011年には14兆3,000億円の歳出削減が実現している。これを前提に、社会保障・名目成長率の条件を変えて複数のケースを列挙していた。
 それによれば、最悪の場合、2025年度に消費税をおよそ17%に引き上げなければならない。
 (a)最も悲惨なシナリオ・・・・名目成長率を2.1%に設定し、社会保障の給付は今のレベルを維持した場合。2025年には、保険料などの国民負担を今より上げても、財政再建に必要な国の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)は24兆円の赤字になる。GDP比にして4.6%分が必要となる。そして、赤字分を税収で埋めるには29兆円もの増税が必要で、これを消費税率アップで対応すると、実に消費税17%に達する。
 (b)最も楽観的なシナリオ・・・・楽観的に見ても8兆円の増税が必要だ。

(2)試算に隠されたトリック
 (a)計算期間の長さ・・・・18年間とは長すぎる。18年もの間には政権も変われば、今の制度にも検討が加えられる。経済学のテクニカルな観点からしても、「マクロ計量モデルの長期試算はできない」のがエコノミストの常識だ。長期にわたると、その間に消費行動や投資行動が変わるので、モデル自体に必ず構造変化がある。
 マクロ計量モデルで計算できるのは中短期、せいぜい5年まで。
 だが、財政タカ派には、何が何でも2025年までの長期間で計算する必要があった。その理由は、(b)以下のトリックを見ていけば分かる。

 (b)歳出の増え方・・・・明らかにおかしい。ペーパーに歳出の試算方法が記されているが、社会保障費以外の歳出までもが増加すると仮定している。<例>人件費は賃金上昇率で増加し、公共投資も名目成長率で増加させる、という。
 そもそも、社会保障は歳出のうち3分の1にすぎない。残り3分の2にしても、公務員人件費や、ムダがまだあるとされる公共投資などを伸ばそう、というのだ。無駄な歳出を徹底的に削るのが、財政再建の一歩ではないか。
 高橋洋一の試算によれば、社会保障は5年間で伸ばしつつも、他の歳出を削減することによって、全体の歳出を抑えることが可能だ。実際、小泉政権の5年間で、公共投資は年7%削減し、3割以上も少なくなった。名目成長率に比例して公共投資の歳出を増やす理由はどこにもない。
 試算には、無駄遣いをやめるという前提がすっぽり抜け落ちているのだ。

 (c)名目成長率の低さ・・・・2006年は3~4%を前提としていたが、2007年は2~3%と、いつの間にか設定が低くなっている。たかが1%低いだけでも、2025年までの長期となると、大きな違いが生じる。おおまかに計算して20年間で2割減、GDPは100兆円ほど、税収も20兆円くらい少なくなる。すなわち、税収をかなり低く見積もっていることになるのだ【注1】。

 (d)金利の設定・・・・国家にとって財政再建とは、借金を全額返すことではない。公債残高のGDP比を減らすことだ。2007年現在、日本は名目GDPが500兆円で、公債残高が800兆円。借金は1.5倍だ。
 公債残高のDP比を改善するためには、2つの条件が必要だ。①基礎的財政収支を黒字にする。②できるだけ、成長率が金利より高くなるようにする。
 成長率より金利が高くなると、公債残高の利払いも大きくなるので、名目成長率が伸びていても借金は増えてしまう。逆に成長はしているけれど金利が低いという状態になれば、財政再建は加速度的に進む【注2】。
 この時の諮問会議は、金利のほうが必ず成長率より高いという仮定を採用し、名目成長率が3.2%のとき長期金利は4.5%、名目成長率が2.1%のとき長期金利は3.6%としている。つまり、成長率と金利の差は常にマイナス1.3~1.5%程度となる。【注2】の数式で計算すると、もうひとつの項目のプライマリー収支がゼロで均衡していても、必ず財政赤字は増えていく。現状維持するのでさえ、プライマリー収支で2%の黒字を達成しなければならない。
 財政タカ派は、この設定を「過去の金利と成長率の関係から堅実な前提とした」と説明している。しかし、1960年代から2000年代までの日本は、金利のほうが成長率より高いけれども、ややという程度で、イコールに近い。ここにこそ、財政タカ派が期間を2025年までにした理由がある。現実の成長率と金利がほぼイコールである以上、短期ではその差をマイナス1%以上と仮定するのは無理がある【注3】。したがって増税という結論は出てこない。
 財政タカ派にとって財政再建は二の次、彼らはどうあっても増税が必要だ、という結論を導き、消費税率をアップしたいのだ。
 
 【注1】この時点では、リーマン・ショック(2008年9月)はまだ発生していない。
 【注2】(公債残高÷GDP)の改善=(基礎駅財政収支黒字÷GDP)+(名目成長率-金利)×(公債残高÷GDP)
 【注3】リーマン・ショックも東日本大震災も経験していない時点での話だが、議論の骨格は今も生きている。

 以上、高橋洋一『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白~』(講談社、2008。後に『さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別』(講談社+α文庫、2010))に拠る。

 【参考】「【政治】官僚が政治家をあやつるテクニック ~財務省による民主党支配~
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