語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【国際】プーチン大統領、米国へ怨みを倍返し ~シリア問題~

2013年09月18日 | 社会
 (1)本来グローバルな経済問題について話し合う場のG20サミットは、9月5~6日(於サンクトペテルブルグ)では、シリア問題をめぐる米露の駆け引きが中心テーマとなった。
 6日、プーチン・露大統領とオバマ・米大統領が20分間会談した。シリアに対する限定的な武力行使に係る両者の主張は溝が埋まらず、会談は決裂した。会談後の会見で、
  (a)プーチンは、シリアが攻撃されたら助ける、と述べて米国を牽制し、
  (b)オバマは、安保理決議がなくても軍事行動に踏み切る考えを表明した。

 (2)そもそも、米露首脳会談が行われたこと自体、米国が守勢に立っていることを示す。
 8月1日、エドワード・スノーデン・元CIA職員の1年の期限付き亡命をロシアが認めた。これに反発した米国が、9月上旬、G20の際に予定されていた米露首脳会談をキャンセルした。かかる経緯にもかかわらず、今回オバマが会談に応じたこと自体が米国の弱さだ、とプーチンは受け止めている。
 プーチンからすれば、CIAがスノーデン拘束作戦を首尾よく展開できなかったので、ロシアは迷惑を受けた。にもかかわらず、米政府はロシアがスノーデンを米国に引き渡さなかったことを非難し、エキセントリックな対応(本件と無関係な米露首脳会談のキャンセル)をした。
 こうしたことに、プーチンは腹を立てている。シリア情勢に関し、「スノーデン事件のときの怨みを倍返しにしてやる」という対応をとっている。

 (3)ロシアも、シリアにおいて化学兵器が使用されたことを認めている。ただし、使用者はシリア政府軍ではなく、反政府武装勢力である、という見方を示す。ただし、ロシアは、裏付けとなる証拠を一切提示していない。
 本件をめぐるロシアの論理は、8月31日のプーチン声明が端的に示す。いわく・・・・
 シリア政府軍は郵政に立っており、いくつかの地域では反体制派を囲んでいる。この条件下で、しきりに軍事介入を呼びかけている者らに切り札を与えることは途方もなく馬鹿げた話だ。しかも、国連の査察団が到着するという、その日に。ゆえに軍事介入の提案は、紛争に他国を引きこもうとし、国際活動の強力な参加者(何よりもまず米国)側からの支持を取り付けたいとする者らが仕掛けた扇動以外の何ものでもない。米国は化学兵器を使用した証拠を国連の査察官や安保理に提供せよ。証拠を掴んでいるが、誰にも提供できない、という言い分は、批判に耐えるものではないし、国際活動のほかの参加者に対する尊敬の念を欠いている。証拠が提出されなければ、そういったものは無いのだ。何らかの交渉の情報をとらえた、のごとき話は、これだけ重大な決定(主権国家に対する武力行使)をとる土台になり得ない、云々。

 (4)元KGBのプーチンは、シリア情勢を熟知している。アサド政権がアラウィー派でないシリア国民に対して虐殺を行ってきた経緯を熟知している。アサド政権が、国民に対して化学兵器を使用する可能性も十分にある、とプーチンは認識している。
 だから、<仮に国連によってシリアで化学兵器が使用された事実が証拠付けられれば、ロシアは「同様の事態が繰り返されぬための措置の策定に」加わる>【注1】と述べているのだ。
 
 (5)プーチンは、米露首脳会談の結果、オバマが決断力に欠けて優柔不断な性格である、という認識を持つに至った。
 そこでプーチンは、ソ連崩壊後に米国が設定した「レッドライン」(この線を超えたら武力によって鎮圧される)を機能不全に陥らせようとして、インテリジェンス工作を展開している。
 <ロシアはシリア軍事介入が行われた場合、シリアを支援する。6日、プーチン大統領はG20サミットを総括した記者会見の席で、記者団からの問いに答えたなかでこう語った。/プーチン大統領はまた、ロシアは現在も支援を行っており、「武器を供給し、経済分野で協力を行っている」と付け加えた。(中略)/プーチン大統領は、G20サミットの討論のなかで、シリア攻撃には米国、トルコ、カナダ、フランス、サウジアラビア、英国が支持を示し、逆に不支持を表明したのはロシア、中国、インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカ、イタリアだったことを明らかにした。/プーチン大統領は、シリア攻撃には国連のパン事務総長もローマ教皇も反対していると指摘し、「これ以外にも西側諸国の大多数の市民がシリアでの軍事行動を支持していない」と強調している>【注2】 

 (6)プーチンは、シリア問題をめぐってG20の場を利用して、対米包囲網を形成することを試み、それはかなり成功した。
 その結果、オバマはプーチンに対する不信感を強めた。
 両大統領は、シリア国民の命運には関心を持たず、帝国主義的争いに腐心しているだけだ。

 【注1】8月31日付け「『ロシアの声』日本語版ホームページ」。
 【注2】前掲サイト。

□佐藤優「G20で対米包囲網の形成に成功したプーチン大統領 ~佐藤優の飛耳長目885~」(「週刊金曜日」2013年9月13日号)

 【参考】
【国際】なぜロシアはアサド政権を支持するか ~民族紛争~
【社会】猪瀬直樹東京都知事の「イスラム侮辱」問題 ~国益と国民益を毀損~
【社会】チェチェン人兄弟はなぜアメリカでテロを起こしたのか ~民族問題~
【読書余滴】佐藤優&鈴木琢磨の、朝鮮人やイスラム教徒の時間軸と日本人の時間軸との違い
【読書余滴】佐藤優&宮崎正弘の、言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(3) ~トルキスタン~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(2) ~ソ連解体の始まり、ナゴルノ・カラバフ紛争~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(1) ~アゼルバイジャン~」     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【原発】福島県内各地の放射... | トップ | 【食】中国における食品汚染... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

社会」カテゴリの最新記事