新谷弘実著「病気にならない生き方」と言う著書が非常に良く売れていました。
著者は「ヨーグルト神話」に疑問を感ずるこれだけの理由という見出しを設けて、「ヨーグルトに含まれる乳酸菌が生きたまま腸に届いたとしても、そこで腸内バランスを良くする働きがなされることがないと考えています。では、なぜヨーグルトに「効果」を感じる人が多いのでしょうか。その理由の一つに「乳糖」を分解するエンザイムの不足が考えられます。乳糖というのは乳製品に含まれる糖分のことですが、これを分解するエンザイム「ラクターゼ」は、年齢を経るごとに減少していきます。」「乳糖はヨーグルトの中にもたくさん含まれています。そのため、ヨーグルトを食べると、エンザイム不足から乳糖をきちんと消化しきれず、その結果として消化不良を起こします。つまり、ヨーグルトを食べると、軽い下痢を起こす人が多いということです。この軽い下痢によってそれまで腸内に停滞していた便が排出されたのを「乳酸菌のおかげで便秘は治った」と勘違いしてしまっているというわけです。」と述べています。
著者は牛乳を飲むと下痢をするいわゆる乳糖不耐症のことを述べているようですが、著者が乳酸菌について正しく理解をしておれば、このような間違った見解を述べないであろうと思います。乳酸菌が乳糖をラクターゼ(ガラクトシダーゼ)によってグルコースとガラクトーズに分解して乳酸を作ることを乳酸発酵と呼びます。つまり乳酸菌はラクターゼを持っているのです。ヨーグルトを食べると乳糖の消化不良で下痢を起こすのではなく、腸内で乳酸菌のもつラクターゼによって乳糖の消化を助けているのです。
さらに著者は「もしあなたがヨーグルトを常食しているなら、便やガスの臭いが強くなっているはずです。これは腸内環境が悪くなってきている証拠だと思って下さい。くさいのは、毒素が腸内で発生しているからです。」と述べています。しかし、ホームメイド・ケフィアを食べた人々は一様に「便やおならの臭いが少なくなった」と言います。このことは著者の見解とは違って、ホームメイド・ケフィアに含まれる乳酸菌が生きたまま腸に達して乳糖を乳酸発酵によって乳酸に変え、腸内を酸性に保って腐敗菌の繁殖を抑えていることを示しています。
著者はまた、「人間の腸にはもともと乳酸菌がいます。こうしたもともといる菌を「常在菌」といいます」と述べ、ヨーグルトの乳酸菌が有効ではなく、もともといる「常在菌」こそ有効であるように述べています。この「常在菌」はビフィズス菌であり、ビフィズス菌は腸内腐敗を防ぐ善玉菌であることは周知の事実です。私達は大学へ
研究委託して、ホームメイド・ケフィアを食べるとビフィズス菌が増え、腸内の腐敗産物が少なくなるという報告をいただいています。
さらに新谷先生の別の著書「胃腸は語る」の中で、「イラン国境近くのコーカサス地方には、百歳以上の人たちがたくさんいる長寿村として有名な村があり、自家用ヨーグルトが長寿の秘訣として宣伝されています。ところがその長寿の人たちのインタビューの中でヨーグルトを食べている人はいなかったという記事が1998年3月14日付きのニューヨークタイムスに書かれていました」と述べています。
私はこの記事に疑問を感じ、ニューヨークタイムスの同日付けの記事を検索してみました。その記事にはコーカサスの人々は、ヨーグルトを食べていないがサワーチーズを食べていると記載されています。つまり、コーカサスの人々の食べている発酵乳をヨーグルトと呼んでいないだけで、乳製品を食べていないわけではないのです。サワーチーズはおそらくフレッシュチーズすなわち熟成させていないチーズの意味で、牛乳を乳酸発酵させた新鮮な発酵乳と思います。発酵乳は地方によって名前が異なり、ヨーグルトはブルガリア、トルコ地方の発酵乳のことです。コーカサスでは発酵乳をヨーグルトと呼ばないのは当然のことです。もしニューヨークタイムスの記者がケフィアと言う名前を知っておればサワーチーズと書かないでケフィアと書いただろうと思います。
最近、ホームメイド・ケフィアの愛好者から新谷先生の著書を読んで、多くの質問が寄せられています。私は著者の乳酸菌に対する理解の不足が、ヨーグルトなかんずくケフィアについて消費者の間に誤解を拡げるのではないかと危惧しています。