ナオミ・オルダーマン著、安原和見訳『パワー』(2018年10月20日河出書房新社発行)を読んだ。
ある日を境に世界中の女に強力な電流を放つ力が宿り、女が男を支配する社会が生まれた――。
ベイリーズ賞受賞、各紙ベスト10、「現代の『侍女の物語』」と絶賛されるディストピア小説。
(ディストピア(英: dystopia)または逆ユートピア(英: anti-utopia)とは、反理想郷・暗黒世界、またはそのような世界を描いた作品)
ある時、女性が手から強力な電流を発する力を持ち、数人だったパワーを持つ少女は徐々に広がりをみせる。最年少で最強の力を持ち、イギリスのギャングの娘で、目の前で母を殺された14歳の少女ロクシーは復讐を果たす。里親に虐待されていたアリーは「声」に導かれ、逃げ出して修道院に潜伏し、イヴと名を変えて宗教指導者になる。ナイジェリアの男性・トゥンデは、女性たちに寄り添う報道を行い、有名ジャーナリストになる。田舎の市長だったマーゴットは新しい世界の中で順調に出世して政界進出を狙う。
過激な男性たちは、パワーをもつ女性を殺してしまおうと主張するなかで、女性たちの反逆が世界中ではじまり、男性と女性の関係性は変わっていく。
やがて、当初は平等を主張していた女性たちは、力を持ち、パワーバランスが崩れ始め、考え方が変わってきて、……。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの? 最大は五つ星)
現代の『侍女の物語』と呼ばれて注目され、女性作家に与えられる由緒ある「ベイリーズ賞」を受賞した。
(マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』は、キリスト教原理主義勢力に乗っ取られて宗教国家になったアメリカで、女たちは子供を産む道具として支配階級の男たちに使える「侍女」にされるディストピア小説)
この本の世界で、力を持った女性たちは男性を虐待も、殺すこともできる。パワーで勃起させてレイプも、性奴隷にもできる。男性は女性の保護者なしには危険で外出もできなくなる。子孫を残すための少数の男性は残すが、数が多い必要はないなどとの話もでる。
肉体的に男性が女性を圧倒する現実社会では、男性にはあまり意識されない女性たちの恐れが、逆の世界になったときの出来事で初めて、その暴力性を男性に意識させ、その効果は十分ある。
しかし、ともかく冗長で、もっと快適に簡潔に話を進めて欲しい(p423の大部)。
ナオミ・オルダーマン(Naomi Alderman)
1974年ロンドン生まれ。オックスフォード大学で哲学・政治経済を学び、弁護士事務所等で働いた後、女性同士の恋愛を描いた『DISOBEDIENCE』で作家デビュー。4作目にあたる本書でベイリーズ賞授賞。
安原和見 (ヤスハラ・カズミ)
翻訳者。フィクション、ノンフィクションに多数の訳書があり。マティザック作品邦訳の多くを手がけている。他訳書に『B.C.1177』『ベリングキャット』『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズなど多数。