高野秀行著『語学の天才まで1億光年』(2022年9月10日、集英社インターナショナル発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
学んだ言語は25以上!の辺境ノンフィクション作家による、超ド級・語学青春記。
取材に行く前に必ずその地域の言語を学ぶ著者。
本書ではネイティブに習う、テキストを字サックするなどユニークな学習法も披露。
語学上達のためのヒントが満載!
コンゴの怪獣やアマゾンの幻覚剤探し、アヘンケシ栽培などの仰天体験はじめ、高野作品の舞台裏も次々と登場する。青春ならではのほろ苦いエピソードも。
言語とはなにか。深く楽しく考察し、自動翻訳時代の語学の意味を問う。
私の大好きな高野秀行氏は、早稲田大学探検部出身で、幻獣を探し(『幻獣ムベンベを追え』)、中国の山奥で野人を探し(『怪しいシンドバット』)、アヘン地帯へ侵入し(『ビルマ・アヘン王国潜入記』)、激しい内戦地へ行き(『謎の独立国家ソマリランド』)、冒険記を書く、トンデモな辺境作家なのだ。
高野氏は辺境の得体のしれない人に対しても、馴れ馴れしくし、あっというまに親しくなってしまう。さらにローカル言語をなんとか使いこなしていて、私は語学の天才と思っていた。この本を読むと、まっとうで地道な学習法が嫌いな彼は自己流の語学学習法を確立(?)しているのだ。
この本には、用をたすための英語、フランス語、スペイン語、中国語など共通語の他に、親しくなるために必須なマイナーな現地語の、独特の語学習得の秘法が書かれている。ただし、その方法は、辺境のマイナー語以外に有効かどうかは……。
アフリカのザイールとコンゴでは、公用語がフランス語で、その下に市場・バスなどで使う共通語にリンガラ語がある。さらにその下に数種類の村単位などの民族語がある。この言語階層は人の階層でもある。このように世界には7千~8千の言語があると言われている。
高野氏の言語習得法
・ネイティブに習う
・使う表現から覚える(目的特化)
・実際に現地で使ってウケる(即興で学ぶ)
・目的を果たすと、速やかに忘れる(非常に残念ではあるが)
・その言語の「ノリ」が重要。「ノリ」とは、文法やことばの使い方のほか、発音、口調、態度、会話の進め方。例えば、タイ語は口を大きく開けて発音、音程は常に高め、ひたすら柔らかく優しく。中国語は声を大きく、語気を強く、腹から音を出す。
40半ばを過ぎて学習法を変えた。
・ネイティブに例文を録音してもらい、毎日繰り返す。これは従来と同じだが、単語帳も作らないし、自分でテストもしない。
・現地へ行き、人に訊いて、答えをあらためて覚える。チャットでグーグル翻訳も、オンラインレッスンも良い。
・ITでまかなえるのは「情報を伝えるための言語」。「親しくなるための言語」の学習はなくならない。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
高野ファンで、単に面白がっているだけの私は四つ星だが、まっとうな人は三つ星だろう。
言語学者、文化人類学者でないのに、25もの言語にチャレンジするもの好きは少ない(希少価値?)。
辺境の現地語など学習しようとする人はほぼゼロだし、主要共通語の学習法に通ずるものはあっても、効率を考えると、語学学習のためにこの本を読む必要はない。