安藤祐介著『本のエンドロール』(2018年3月7日講談社発行)を読んだ。
「講談社BOOK倶楽部」にはこうある。
彼らは走り続ける。機械は動き続ける。電子化の波が押し寄せ、斜陽産業と言われようとも、この世に本がある限り。印刷会社の営業・浦本は就職説明会で言う。「印刷会社はメーカーです」営業、工場作業員、DTPオペレーター、デザイナー、電子書籍製作チーム。構想三年、印刷会社全面協力のもと、奥付に載らない本造りの裏方たちを描く、安藤祐介会心のお仕事小説。
大反響5刷! あなたたちがいるから本が読める――。
作家が物語を紡ぐ。編集者が編み、印刷営業が伴走する。完成した作品はオペレーターにレイアウトされ、版に刷られ、紙に転写される。製本所が紙の束を綴じ、"本"となって書店に搬入され、ようやく、私たちに届く。廃れゆく業界で、自分に一体何ができるのか。印刷会社の営業・浦本は、本の「可能性」を信じ続けることで苦難を乗り越えていく。奥付に載らない、裏方たちの活躍と葛藤を描く、感動長編。
【『本のエンドロール』ができるまで】の動画公開中!
「エンドロール」とは、映画などの最後に出演者・制作者・協力者などの氏名を流れるように示す字幕のこと。英語では “credits” 。 「ああ、終わった、終わった」と多くの人が席を立ち、退出するなか、字幕に映画製作にかかわった多くの人の名が延々とほとんど見られることもなく流れる、あれである。
本を作った人というと、作家ということになり、ほんのたまに出版社や編集者があげられることがあるだけだ。実際にはこのほか、印刷会社、製本所、さらに読者に届くまでのその先には配送、取次、書店などの多くの人がかかわっていて、一般に、本の最後にある奥付には、著者、発行者、発行所の他に、印刷所と製本所の会社名が書いてある。
この作品は、主に印刷会社の多くの人たちがそれぞれの立場で熱意を込めて“本”を作っているその現場の話である。
この本の最後には、この『本のエンドロール』を作ったSTAFFとして、印刷会社、製本会社など30数名の名前が書かれている。
主人公は本好きで熱意だけは一人前の印刷会社の浦本。営業先の出版社の編集者の無理な要求を、熱意が先走って勝手に引き受けて来ては、生産管理部を飛ばして、ふじみ野工場の野末正義に頼み込む。
豊澄印刷
浦本学:営業部の文芸書担当。婚約者は柿崎由香里。本造りしたいためワールド印刷から転社。意欲先走り。
仲井戸:営業部のエース。確実な営業で印刷機の稼働率第一。
福原笑美:データ制作部。本好きで、入力作業に集中する。
臼田日向:デザイン部門のブックデザイナー
野末:ふじみ野工場の製造部係長。妻は沙織、幸太と陽太の双子。闘病中の義弟の援助で経済的に苦しい。
ジロさん:吉崎次郎。特色印刷40年の職人。
キュウさん:山際久。デクノ堂のインクジェット輪転印刷機をオペレート&メンテ。
奥平:慶談社の若手編集者。「オウヘイ」と呼ばれる。重版しない作家の曽我部瞬担当。
天草:文友館の編集者。途中退職。
本書は書き下ろし。
安藤祐介(あんどう・ゆうすけ)
1977年生まれ、福岡県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
2007年、『被取締役新入社員』でTBS・講談社第一回ドラマ原作大賞を受賞しデビュー。
その他、『営業零課接待班』『1000ヘクトパスカルの主人公』『宝くじが当たったら』『社史編纂室 アフター5魔術団』『おい!山田 大翔製菓広報宣伝部』『テノヒラ幕府株式会社』など。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
紙の本が減っていく状況の中で、日の当たることがない書籍の印刷工程に光を当てた点を評価したい。ベストセラーとはなりそうもないこんな本を書いた作者、出した出版社にエール。こんな本もなくてはいけないと思う。
小説ではあるが、印刷機工程管理の難しさがわかるのが面白い。出版社の編集で数年アルバイトしたことがあるので私は興味深々だったが、一般には印刷機に関する細かい内容が多く退屈で、「★★★☆☆(三つ星:お好み)」だろう。
浦本の営業の進め方は、自分の意欲に振り回されていてコントロールできてない。読む私もイライラさせられて、小説とはいえ、「お前は首だ!」と叫びたい。「小説だから結果オーライになってるんだぞ、こころしろ!」
問題が起こると、自分だけでなんとか解決しようとして、大きくなって手に負えなくなってから上へ上げている。私は、良い話はゆっくりで良いが、嫌な話はすぐに上司に上げろと教育された。
顔が客先の出版社にばかり向いていてその場だけ上手く逃れたいと良い子になり過ぎている。権限もないのに受注価格に内諾じみた話をしてしまうのは、営業として落第であり得ない。