伊岡瞬著『いつか、虹の向こうへ』(2005年5月25日角川書店発行)を読んだ。
宣伝文句(文庫化の際の)は以下。
第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞、W受賞作、待望の文庫化!
尾木遼平、46歳、元刑事。ある事件がきっかけで職も妻も失った彼は、売りに出している家で、3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。そんな彼のところへ、家出中の少女・早希が新たな居候として転がり込んできた。彼女は、皆を和ませる陽気さと厄介な殺人事件を併せて持ち込んでくれたのだった……。優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇蹟。
第25回横溝正史ミステリ大賞& テレビ東京賞をW受賞した著者のデビュー作。
アルコールにおぼれる中年警備員・尾木遼平が酒場からの帰り道に、金がないので泊めて欲しいと声を掛けられた若い女性・高瀬早希をめぐって3人組と乱闘になる。翌朝、尾木は自宅で気がつく。早希が連れ帰ったのだ。尾木の一戸家には、経済ノンフィクションの翻訳者の石渡久典、休学中の大学生柳原潤、元主婦の村下恭子の三人が同居していた。早希はすぐに溶け込み、尾木の家の4人目の同居人となった。
尾木はかつて腕利きの刑事だったが、女性に利用され、その男を殺してしまい、懲役4年の刑に服し、妻は去り、一軒家だけが残った。
数日後、早希に強要して美人局(つつもたせ)をやらせていた久保裕也が早希を探してやって来て、家にいた尾木は散々に痛めつけられた。さらに夕方、久保は陸橋から転落死し、早希が逮捕される。久保の叔父だという地元暴力団の組長檜山は、尾木に初七日の法要までに真犯人を見つけなければ殺すと申し渡す。尾木は早希のアリバイを証明できる友人の女性の行方を捜すが……。
尾木遼平:道路工事交通整理員。元刑事。元妻は久美子。
石渡久典:経済ノンフィクションの翻訳者。役者のように整った顔。薬の依存症。恋愛対象は男性。
柳原潤:休学中の大学生。尾木は何故か「ジュンペイ」と呼ぶ。
村下恭子:7年前、無謀泥酔運転車に夫と1歳男の子を殺された。執行猶予1年の刑に、民事で訴え、検察に控訴するよう署名運動を起こすと、逆に3人の男に襲われ心を病んだ。3人の内1人を見つけ刺し…。
高瀬早希:自称21歳。美人局でデビューしたばかり。友人は二宮里奈、25歳、美人。
久保裕也:前科2犯。25歳。檜山組準構成員。檜山の甥。
檜山景太郎:檜山組会長。檜山興業社長。幹部は新藤拓郎。
菊地隆一郎:檜山組と対立する菊地組組長。幹部は辻隆介。
室戸:尾木を憎む警部補。
近川:尾木に情報提供する刑事。
花房伊佐夫:弁護士。花山弁護士事務所の共同経営者。
本書は第25回横溝正史ミステリ大賞及びテレビ東京賞を受賞した「約束」に加筆修正し、改題したもの。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)
典型的ハードボイルド。主人公の尾上は、喧嘩に絶対的に強いわけではなく、強い相手にはボコボコにされる。ただし、タフ。中年で心に深い傷を負い、酒におぼれ、ボヤキばかり。元刑事だが警察から毛嫌いされ、ヤクザからも狙われる。
心に闇を持つ4人の着かず離れずの同居生活がユニークでいいじゃない。
ミステリーとしては、まあまあ良し程度。
絵本『虹売り』:その人がもっとも悲しかった話と「虹の種」を交換する。種を土に埋めると最初の雨が降った翌日、その場所から虹が立つ。話の中味が悲しいほど大きな虹ができる。(p204)
もしもいつか、自分にも虹が立ち上がったら。自分にその虹を渡る資格があるなら。そしてその向こうで誰かが待っていてくれるなら。その時はきっと思い残すことはないだろう。私も、虹に昇って純平に会いに行こう。(p305)
市役所の市民課窓口には、絵に描いたように陰険そうな女が座っていた。…私が近づく途中から、ゴミバケツを見るような目つきでこちらを見ていた。ひとを見る目はあるようだ。(p163)