hiyamizu's blog

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貫井徳郎『私に似た人』を読む

2021年04月07日 | 読書2

 

貫井徳郎著『私に似た人』(朝日文庫ぬ1-2、2017年6月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

小規模なテロが頻発するようになった日本。実行犯たちは実生活では接点がないものの、一様に、冷たい社会に抵抗する《レジスタント》と称していた。テロに関わらざるをえなくなった、それぞれの人物の心象と日常のドラマを精巧に描いたエンターテインメント大作。

 

最近、無差別であるが小規模のテロが日本のあちこちで起こるようになった。自殺する犯人たちに面識はない。ネットで連絡しあったことがあるだけのようなのだ。テロ組織があるわけではなく、指導者の存在も未確認で、思想も共有しているようには見えず、社会を変えられるとも思っていない。それでも彼らは自らを《レジスタント》と称している。こんなテロを人々は《小口テロ》と呼ぶようになった。

 

この本は10章から成り、(小口テロ)に加害者側、被害者側として関わることになった10名の話が続く。ネット上で謎の人物「トベ」が背後に見えかくれする。

微妙につながりを持つ10名の物語から、現代日本の問題点、「格差」、「閉塞感」、そして、ワーキングプア持って行き場のない「憤り」が描き出される。日本推理作家協会賞受賞作『乱反射』のように、良く工夫された構成だ。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

SNSで関係しある十数名の人が、小口テロに関わり、繋がりあうという構成は面白い。話自身も面白く、スイスイ読める。ただし、同じ様な展開の話で、十章、十名は長く、冗長だ。

 

しかし、小口テロを何のために実行するのかが、よく理解できない。理想の社会を実現するためでもなく、狙う相手に復讐するためでもなく、金のためでもない。小口テロがあちこちで頻発すれば、無関心な人々が真剣に考えるようになるという理屈も理解しがたい。

 

 

貫井徳郎(ぬくい・とくろう )の略歴と既読本リスト

 

 

樋口達郎は、実況アナウンサーが別れた恋人・香月紗弥の名前を呼びあげたのでびっくりする。達郎は別れた後の紗弥がどうしていたのかを調べ、恋人・勝村が彼女に暴力をふるっていたことを知る。達郎は……。

 

小村義博は、自動車工場でボルトの検品という辛い作業に従事し、吃音癖から孤独だった。SNSで優しいハンドルネーム《みどりん》と、別のSNSで社会の構造を教えてくれる《トベ》と知り合う。《みどりん》には恋人がいることが判明し、生きがいだった野良猫を引き殺された義博は……。

 

二宮麻衣子は、(義博の起こした)小口テロ現場で大怪我した人の介護にあたる。ただ見ているだけだったり、撮影するだけの人の中に、目覚ましく救助に活躍する男性がいた。怖いヤクザ顔の彼は同じ会社の名取通晃だった。彼は常に正論を厳しく主張することからヘイトと呼ばれ、毛嫌いされていた。

 

29歳の秋山は渋谷スクランブル交差点で刃物を振り回し二人の女性の顔を切って逮捕された。小口テロ実行犯で死なずに逮捕された初めての《レジスタント》だった。秋山は取調べでテロを教唆した《トベ》の存在を認めた。刑事の猪原は引きこもりの娘・寛海のスマホに《トベ》とのやり取りを見て愕然とする。猪原は《トベ》を誘い出して逮捕することに成功するが、寛海にひどく嫌われてしまう。されに《トベ》には親、子と多くの《トベ》がいることが判明する。

 

昔からできないということがなかった伊藤圭輔は、SNSのアニメサークルで知り合ったネガティブな性格の《ひでぶ》の愚痴を受け止め、励ましていた。圭輔はネットで《トベ》と知り合い、小口テロへ背中を押すという草の根運動をあなたならできると勧められる。圭輔は《ひでぶ》に小さな石の一つになることを勧める。一方、優しかった恋人・美和は、圭輔に刺激されたのか、突然、国際ボランティアNGOに参加してカンボジアへ行くと言い出す。

 

 

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