hiyamizu's blog

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南杏子『サイレント・ブレス』を読む

2020年08月25日 | 読書2

 

南杏子著『サイレント・ブレス 看取りのカルテ』(幻冬舎文庫み34-1、2018年7月10日幻冬舎発行)を読む

 

裏表紙にはこうある。

大学病院から、在宅で最期を迎える患者専門の訪問クリニックへの“左遷”を命じられた三十七歳の倫子は、慣れない在宅医療にとまどう。けれども、乳癌、筋ジストロフィー、膵臓癌などを患う、様々な患者の死に秘められた切なすぎる謎を通して、人生の最期の日々を穏やかに送れるよう手助けする医療の大切さに気づく。感涙の医療ミステリ。

 

巻頭に、「サイレント・ブレス」というのは「静けさに満ちた日常の中で、穏やかな終末期を迎えることをイメージする言葉」だとの説明がある。

この本は主人公の水戸倫子が大学病院から訪問クリニックに異動になり、終末期の患者たちを看取ることになる物語だ。

 

大学病院の総合診療科に入局して10年、すべてに要領が悪く予定が遅れ遅れだが、誠意ある仕事をと突っ走る37歳になる倫子。今日もまた終電を目指し駅に走っていた。

ある日突然大河内教授に呼ばれ、武蔵野訪問クリニックに異動させられる。「何がいけなかったんでしょう。一生懸命やってきたつもりですが……」と言う倫子に、教授は「三年前に僕が試験的に始めた在宅医療部門だ」と説得する。

 

訪問クリニックは三鷹駅から数分の井之頭通りにあった。スタッフは看護師のコースケこと武田康介、医療事務の亀さんこと亀井純子だけだ。

訪問先には様々な患者、そしてさまざまな死があった。

  • 末期の乳がん患者、ジャーナリストで45歳の知守綾子は「とにかく私は、死ぬために戻ったの」「だから治療の話はやめて。時間の無駄よ」と言う。
  • 22歳の進行性筋ジストロフィーの天野保は、母親の和子は協力的でないが、陽気で挑戦的。
  • 御屋敷に住む古賀芙美江は息子純一郎の願いを聞いて胃瘻拒否の態度を翻した。
  • ひとつだけ毛色の変わった話が挿入される。身元不明で発見された高尾花子は言語障害で推定10歳。倫子と医学部同期の糸瀬は里親宅で在宅医療を要請してきた。
  • 消化器がんの権威として知られた名誉教授・権藤は、手遅れの膵臓がんになり自宅に戻り一切の治療を拒否したが、突然、点滴と痛め止めを要求された。
  • 倫子の父・慎一は脳梗塞から意識のない状態で誤嚥性肺炎を繰り返し、施設と病院を往復していた。倫子は自宅で看取ろうと考えて休職したが、母は……。倫子は当事者となって苦悩する。

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

重苦しいテーマだが、説得力ある内容・文章でわかりやすく、読みやすい。現役の終末期医療専門の医師だけあって、話はリアルだ。

すべての例を通じて、死を静かに受け入れる時代へ近づいていると感じる。

武蔵野市や、三鷹駅など私に土地勘のある話が多く、長い行列で知られる評判店(さとう)のメンチカツや、御殿山の屋敷などフムフムと楽しんだ。

 

南杏子(みなみ・きょうこ)の略歴と既読本リスト

 

 

お墓や仏具は祭祀財産と呼ばれ、遺族間で分割する遺産の対象にならなず、祭祀継承者、多くの場合長男、が受け継ぐ。

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