hiyamizu's blog

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チョン・セラン『フィフティ・ピープル』を読む

2020年08月31日 | 読書2

 

チョン・セラン著、斎藤真理子訳『フィフティ・ピープル』(2018年10月17日亜紀書房発行)を読んだ。

 

ある大学病院内と周辺の50人(正確には51人)の物語。主人公がいない小説だ。バラエティに富む50人の日常を一人数頁で語るだけだが、それぞれの確かな生き方が感じとれる。

 

前に登場した人が、関係ない人の場面にほんの少しだけ姿を見せるなど、幾人かが絡み合って全体の物語を織りなしている。
例えば、韓国への苦手意識を持つハンドボールのナイジェリア代表・スティーブ・コティアンが食あたりで入院する。ふと、病室から窓の外を眺めると、隣の建物の屋上に女性が寂しげに一人立っている。女性と目が合い、とっさにスティーブは手を振った。女性も手を振ってくれた。女の人が親切な国だな。暮らしたいとは思わないけど、それでもまた来てみたい。(p241)
この女性は、病院で働く女性医師のイ・ソラだった。女性蔑視にきちんと戦い「剣の舞」と揶揄されていた。(p311) 二人は互いに、ほんの少しだが、それぞれの人生の脇役になった瞬間だった。

そして最後にほとんどの登場人物が映画館で一堂に会す。

 

初出は2,016年から出版社チャンピのウェブサイトに連載。

2016年11月単行本化。韓国で最も権威ある文学賞の一つ、韓国日報文学賞を受賞



私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき)(最大は五つ星)

 

次から次へと様々な人が登場し、次の人に代わる。短い文ながら、その人の人柄、人生の一端がかいま見られて飽きない。

 

思わぬところで、前出の登場人物がそっと登場し、気づくとなんだか少し嬉しくなる。我々もいろいろな局面で、それぞれの人生を歩んでいる人と交差しているのだろう。そして、この小説を読んだ今は、多くの場合には何かプラスになることを得ているのではないだろうかと思えてくる。

 

韓国は日本とは異なる独特の習慣やルールが多くある国だと気付かされた。この点について本書は親切で、本文中に簡潔な注を入れてくれている。例えば「ワカメスープを飲ませた」とあれば、めでたいときに飲むとか、友達の紹介で異性に会うソゲッティングという仕組みがあるとかなど、近くて遠い国だなと思い、もっと理解しなければと思った。

 

 

チョン・セラン
1984年ソウル生まれ。大学の歴史学科と国文科を卒業後、有名出版社で編集者として働いた。

2010年に雑誌『ファンタスティック』に「ドリーム、ドリーム、ドリーム」を発表して作家デビュー。
2013年、『アンダー、サンダー、テンダー』(吉川凪訳、クオン)で第7回チャンビ長編小説賞
2017年に『フィフティ・ピープル』で第50回韓国日報文学賞を受賞。
純文学、SF、ファンタジー、ホラーなどジャンルを超えて多彩な作品を発表し、若い世代から愛され続けている。童話、エッセイ、シナリオなども手がけている。他の小説作品に『地球でハナだけ』『保健教師アン・ウニョン』『島のアシュリー』など。
常々「何ももらえず搾取されるばかりの自分の世代の声を代弁したい」と語る。

斎藤真理子
1960年新潟生まれ。訳書に『カステラ』(パク・ミンギュ、ヒョン・ジェフンとの共訳、クレイン)、『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ、河出書房新社)、『ギリシャ語の時間』(ハン・ガン、晶文社)、『ピンポン』(パク・ミンギュ、白水社)、『誰でもない』(ファン・ジョンウン、晶文社)、『羞恥』(チョン・スチャン、みすず書房)など。『カステラ』で第1回日本翻訳大賞受賞。

 

メモ

「あんた、知ってる? 世の中の安全法のほとんどは、遺族が作ったんだって」

 

韓国の病院は地下に霊安室とともに葬儀場があり、そこで葬儀を営めるようになっていることが多い。

 

韓国の医師養成課程はグローバルスタンダードを目指している。

  • 高校卒業後、だいがくの医学部(6年制)で学ぶ
  • 四年制大学の他学部の卒業生や社会人がメディカルスクール(4年制。「医療免許専門大学院」と呼ばれる)で学ぶ。

の二つの方法がある。医師国家試験に合格すれば医師免許が発給される。

以後の臨床研修は、

  • インターン(一年間かけて主要な診療科を巡回する)
  • レジデント(診療科を確定し、3年か4年経験を積む。この課程を修了すると専門医になる。
  • フェロー(専門医として、一般に1~3年の経験を積む)

各課程ごとに国家試験がある。男性は大学学部卒業後やレジデント終了時などに約2年兵役に就く。

 

 

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