hiyamizu's blog

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島本理生『夜 は お し ま い』を読む

2020年08月15日 | 読書2

 

島本理生著『夜 は お し ま い』(2019年10月23日講談社発行)を読んだ。

講談社の宣伝文句は以下。

島本さんの小説はいつも、自分は傷ついているのだと気づかせてくれる。――藤崎彩織

深い闇の果てに光を掴もうとする女性たちの、闘いと解放。直木賞作家の真骨頂!
性とお金と嘘と愛に塗れたこの世界を、私たちは生きている。
ミスコンで無遠慮に価値をつけられる私。お金のために愛人業をする私。夫とはセックスしたくない私。本当に愛する人とは結ばれない私――。
秘密を抱える神父・金井のもとを訪れる四人の女性。逃げ道のない女という性を抉(こじ)るように描く、島本理生の到達点。

 

「性とお金と嘘と愛に塗れたこの世界」を生きる4人の女性が、秘密を抱えた神父・金井のもとを訪れる連作短編集。

 

「BOOKウォッチ」にこうある

島本さんは「純文誌で小説を書くのはこれが最後」という意味を込めて、本書のタイトルをつけた。それが改稿を進めていくうちに、次のような気持ちになっていったという。

「この小説にとっての『おしまい』ってもう少しポジティブな意味でもあるかな、と......。夜が明けていくときのような、暗闇の中で光が見えてくるような感覚でおしまいにするのがちょうどいい気がしたんです。それなら......少し余韻を残すような一マス空きの『お し ま い』にしよう、と

 

「夜のまっただなか」
ともかく有名私大に行きたかった琴子は、入りやすい神学部に入学。大学のミスコンで最下位になりショックを受けた琴子は、タレント事務所勤務だという北川と付き合うことになる。北川に誘われてホテルに入ったが、逃げたくなる。皆がしているんだから、むしろこれくらいしないといけないと思う。結局、琴子は病院へ行くことになった。キリスト教の講義を受けた金井先生から借りた本を金井先生に返しに行き、机の上のメッセージカードを読んでしまう。そこには「結局は更紗さんのことが大切だということなのです。」とあった。。

 

「サテライトの女たち」
お金のために愛人業をする結衣は、繁盛しているチェーン店の副社長・中年男の北川が借りたマンションに住む。友達のハル君は資産家の息子で弁護士を目指している。ホストクラブでは雪成がごひいきだが、ルイとも付き合う。結衣は北川を騙してお金を手に入れようとしたが……。母・葉子は前任の神父に犯されて、女性信者だけの小さな新興宗教「マリアの住処」を立ち上げている。結衣は金井神父に告解しに行く。

 

「雪ト逃ゲル」

「はなれる、もうおわりにする、という言葉をくり返して、なぜか金沢の市内をいま歩いている。」と始まる。

セックスは抜きで良いという夫と息子・伊月がいながらKと逢瀬を繰り返す作家の私。誘われるままに寝た男は他にもいる。

Kの前で無防備に泣いたことなどないので動揺して顔をあげると、驚いたように見つめ返す目があった。突然、喉が開いた。

「お父さんが私を」

その瞬間、バツンッと扉が落ちたように脳が閉まった。

暗い視界に静かに言葉が浮かび上がった。

 

それが本当に起きたことなら生きていけない。

のちのちになって、母が帰宅した直後に父をビール瓶で殴ったことを知った。それから数か月の記憶は曖昧だ。

 

「静寂」

こういう仕事をしていると、自分のメンタル管理なんてたやすいだろう、と誤解されがちだ。

実際はどんなに操縦に慣れていても、荒い海流を小さな高速船で突っ切るときに揺れないことはまずない。

カウンセラーの更紗は24歳の相談者・有栖(ありす)に密かに想いを寄せる。自宅では27歳の弟・渚と二人住まいだ。恩師の大垣先生の悲報が届く。

大垣が、大学で同期だった金井が精神科医からカソリックの司祭に転身したと語ったことを思い出す。金井は父

に追い詰められた妹・亜子の治療に失敗し、神学科へ入りなおした。更紗は亜子にそっくりだという。

 

初出:「群像」2014年11月号、2015年3月号、8月号、9月号、12月号

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

かなりエグいベッドシーンが続き、キリスト教、神、罪悪感といった宗教的なテーマが観念的な文章で語られる。とても楽しんでは読めない。この種の純文学は御免だ。

 

昔昔には、悲恋を生み出すものとして身分の差があったが、それが少し前には難病に代わり、それも「またか」となり、今は幼少期の父親の性的虐待が悲劇的人生の原因として描かれることが多くなっている気がする。

 

島本さんは「たぶんこれ以上は同じことのくり返しになってしまうので、純文学はこの作品で一区切りが着いたかな、とも思っています」と「BOOKウォッチ」にあるので、今後に期待しよう。

 

島本理生(しまもと・りお)の略歴と既読本リスト

 

 

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