hiyamizu's blog

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島田雅彦『深読み日本文学』を読む

2018年01月15日 | 読書2

 

 島田雅彦著『深読み日本文学』(インターナショナル新書016、2017年12月12日集英社インターナショナル発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

「色好みの伝統」「サブカルのルーツは江戸文化」「一葉の作品はフリーター小説」など、古典から漱石・一葉らの近代文学、太宰・安吾らの戦後作品、さらにAI小説までを、独自の切り口で分析。 創造的誤読、ユーモアの持つ効能、権威を疑う視線といった、作家ならではのオリジナリティあふれる解釈で、日本文学の深奥に誘う。

 

 以下、私が引っ掛かったところだけ紹介。

 

序章 文学とはどのような営みなのか

「あの世」は言語によって生まれた

 75000年前より古い地層からは狩りのためなど用途がわかるものしか出土していない。一方、75000年前に現生人類が住んでいた洞窟からは何に使っていたかわからない模様が刻まれた土片(オーカー)が発見された。一口に言えば「アート」である、物事を象徴化・抽象化する能力があり、現実にはないものを記号に置き換えるという言語を使っていたことになる。

 

第3章 恐るべき漱石

「ヨーロッパの三人称客観描写の語り手」は、神のような固定した視点でもって、あまねく事象を俯瞰する。

「漱石の写生文の語り手」の視点は、対象と距離を取っているものの、時には大きく離れ、また時には相手に接近し、浮遊した感覚となる。

 

第5章 エロス全開――スケベの栄光

 谷崎作品の特徴は、女性の肉体を博物学者のごとく観察し、徹底的に描写していることです。・・・その筆致は、ほとんど視姦レベルです。

 

 ・・・『猫と庄造と二人のをんな』・・・には「こうはなりたくないよね」と思わせるような人間ばかりが出てきます。・・・猫を愛しすぎるがあまりおかしくなっていく主人公と、猫に嫉妬する妻、そして猫を引き取って男の心をつなぎとめたいと思う前妻を描いた作品です。この小説を読むと、「ああ、人間はここまでくだらなくなれるのか」と脱力します。

 

第7章 ボロ負けのあとで――戦中、戦後はどのように描かれたか

「無頼派」(太宰治、坂口安吾、織田作之助、石川淳)第二次大戦直後の混乱期、反俗・反権威・反道徳的な作風。自分の弱さに開き直り、自ら積極的に社会の顰蹙を買いにいく。

 安吾が『堕落論』を通して行ったアジテーションは七〇年後の現在も有効です。私たちは戦争や震災という非常事態を経験し、多少は悟りました。食うに困ったり、親は子を亡くしたり、生き延びるためにエゴイズムを発揮したりしながらも、人を助けたりする。やるせない世の中に絶望し、堕ちるとこまで堕ちてもなお、やけっぱちの善意を発揮してしまう。だからこそ私たちは幾多の災厄を生き延びてこられたのです。政府や国家に救われたわけではありません。

 

第10章 テクノロジーと文学――人工知能に負けない小説

ストーリーデリング

 例えばハリウッド映画では、100分の作品では50分で折り返すのが基本構造。前半はふんだんに伏線をちりばめ、後半は伏線を回収する。75分くらいの終盤で主人公を最大の危機に陥れる。ヒーローや敵役には必ず弱点を与える。起承転結のどこかに一つサプライズを入れる。このようなエンタテインメントには人工知能が入りやすい。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 日本文学史としては初心者ならお勧めできる。いかにも「サヨク」を名乗る著者らしい小気味よい皮肉が混じるが、大半はいろいろなところで既に語られている範囲にとどまる。

 

 各作家の文体を分析しているところは、さすが優れた作家だと感心した。

 

 

島田雅彦

1961年東京都生まれ。小説家。法政大学国際文化学部教授。東京外国語大学ロシア語学科卒。

1983年大学在学中に発表した『優しいサヨクのための嬉遊曲』が芥川賞候補。

1984年『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞受賞

1992年『彼岸先生』泉鏡花文学賞受賞

2006年『退廃姉妹』伊藤整文学賞受賞

2008年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞

2010年下期から芥川賞選考委員

2016年『虚人の星』で毎日出版文化賞受賞

その他、『小説作法ABC』 など著書多数。

 

 

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