hiyamizu's blog

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前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』を読む

2018年01月03日 | 読書2

 

 前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書883、2017年5月20日発行)を読んだ。

 

 表紙裏にはこうある。

バッタの群れは海岸沿いを飛翔し続けていた。夕方、日の光に赤みが増した頃、風向きが変わり、大群が進路を変え、低空飛行で真正面から我々に向かって飛んできた。大群の渦の中に車もろとも巻き込まれる。翅音は悲鳴のように重苦しく大気を振るわせ、耳元を不気味な轟音がかすめていく。このときを待っていた。群れの暴走を食い止めるため、今こそ秘密兵器を繰り出すときだ。さっそうと作業着を脱ぎ捨て、緑色の全身タイツに着替え、大群の前に躍り出る。
「さぁ、むさぼり喰うがよい」   (本文より)

 

 バッタ研究のポスドクが、厳しい就職戦線を勝ち抜くため、優れた論文で勝負するのは無理と、アフリカの砂漠の研究現場でフィールドワークし、派手なパフォーマンスと宣伝で見事就職先を勝ち取る。

 

 著者が小学生の時、『ファーブル昆虫記』に魅せられたが、アフリカ見学のた女性観光客が大発生したバッタの大群に緑色の服を喰われてしまったとの科学雑誌に記事を読んで、「バッタに食べられたい」という夢を描いていた。

 

 バッタの研究で博士号をとったが、ポストがなくて、安定した職場がない。学問、論文で厳しいポスドク戦争を勝ち抜く自信、実績がない。バッタ研究者の著者は研究室で人工的環境での飼育実験ばかりしており、野生の姿を見たことがなかった。そこで、サバクトビバッタが数年に1度大発生し、アフリカの飢餓の一原因にもなっているモーリタニアへ飛び込んで、現場から研究成果を出せば、日本の研究機関に就職が決まり、バッタに喰ってもらえて、昆虫学者としても喰っていけると思いついた。

 

売名行為は研究者の掟に反するものだった。・・・大論文を出していない実力不足の私が大声で騒いだら、ネット上のみんなは喜んでくれるけど、学会関係者たちからは煙たがられるに決まっている。・・・しかし、一発逆転を狙う弱者には、もはやこの道しか残されていない。覚悟の上、掟破りに広報活動に手を染める決意をした。

 

 

 フランス語の勉強も怠っていた著者は、日本とは大いに異なる生活環境、食べ物、習慣に負けず、現地の人とたちまち仲よくなり、数々の困難をなんとか乗り越えて、フィールドワークを進めていく。

 

 そして、なかなか出会えなかったバッタの大群をついに捕まえ、緑の全身タイツに着替えて仁王立ちになるも、バッタにはスルーされた。このあたりの写真が笑える。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)

 

 著者の戦略と行動力には感嘆だ。研究者でも、頭で勝負できなければ、研究室から厳しい現場へ飛び、人懐っこさ、困難をものともしない克服力、そして恥を恥と思わない心(ちょっと言い過ぎだが)で勝てる。

 

 ポスドクの就職への困難さが身に沁みるし、アフリカでの現地の人との付き合いの難しさ、環境の厳しさなどが生き生きと語られる。

 

 それにしても、研究者には、こんなとんでもない変わり者がいて、まじめ一筋だけに余計に笑わせてくれる。おっと、私もかっては研究者の端くれの端くれだった。

 

 

 

前野ウルド浩太郎(まえの・うるど・こうたろう)
1980年秋田県生まれ。昆虫学者(通称:バッタ博士)。国立研究開発法人国際農林水産業研究センター研究員。

神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(農学)。

京都大学白眉センター特定助教を経て、現職。
アフリカで大発生し、農作物を食い荒らすサバクトビバッタの防除技術の開発に従事。モーリタニアでの研究活動が認められ、現地のミドルネーム「ウルド(○○の子孫の意)」を授かる。

著書に、第4回いける本大賞を受賞した『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大
発生』(東海大学出版部)がある。

 

 

サバクトビバッタ

まばらに生息している低密度下で発育した個体は孤独相と呼ばれ、一般的な緑色をしたおとなしいバッタになり、お互いを避け合う。一方、周りにたくさんの仲間がいる高密度下で発育したものは、群れを成して活発に動き回り、幼虫は黄色や黒の目立つバッタになる。これらは、群生相と呼ばれる。成虫になると、群生相は体に対して翅が長くなり、飛翔に適した形態になる。

普段は孤独相のバッタが混み合うと群生相に変身することを「相変異」という。

 

バッタとイナゴ

 相変異するのがバッタ(Locust)、示さないのがイナゴ(Grasshopper)。日本のオンブバッタやショウリョウバッタはイナゴの仲間。Locust はラテン語の「焼野原」で、彼らが過ぎ去った後は、緑が全て消えていることから。

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