hiyamizu's blog

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一ノ瀬俊也『皇軍兵士の日常生活』を読む

2014年08月30日 | 読書2


一ノ瀬俊也著『皇軍兵士の日常生活』(講談社現代新書1982、2009年2月20日発行)を読んだ。

最近では、かっての日本軍を含めた軍隊に対してプラス・イメージを持ち、発言する人がいる。「規律正しい」「社会生活での基本が身につく」「軍隊は公平」。そして「徴兵制を復活し、若者を軍隊で鍛えなおす」などの発言がその文脈で語られることがある。

しかし、著者は、一部語られる「軍隊神話」の反例を挙げ、暴いていく。
(1)
上官の命令には絶対的に服従で、精鋭を誇る皇軍の秩序は、兵士達、兵士と将校・下士官が「勇怯」を相互監視することで成り立っていた。したがって、沖縄での米軍の圧倒的火力の前では軍隊のそのような秩序は根本から崩壊してしまった。


(2)
軍隊は平等社会ではなかった。学歴(ないし学力)や出身階級で壁があり、その格差が生死につながった。
また、家族に支払われる賃金も、大企業と中小企業、自営業では明確な格差があった。食料も、将校と兵との間では残酷なまでの差があった。


また、戦争の長期化、敗戦への道程で規律も乱れ、食はますます不公平となる。古兵が朝の点呼にも出ず、暴力で逆に上官を脅す例もあった。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

全体として著者に主張には納得できるが、当然の結論という気もする。私の年齢、70歳過ぎ、では子供の頃に大人たちから日本軍のひどい実例をいろいろきかされたり、読んだりしていて、驚くような話はなかった。

良く調べてはいるのだが、全体としての傾向でなく、あくまで個別の事例の羅列になっている。統計的データは無理としても、少数でも反例も挙げてあればとも思う。著者の意図に沿った事例のみを挙げているのではと疑うこともできる。
もちろん、論調は一方的に決めつけるものでなく、冷静な語り口なのだが。


一ノ瀬俊也(いちので・としや)
1971年福岡県生まれ。九州大学文学部史学科卒業、同大学大学院比較社会文化研究科博士課程中退。博士(比較社会文化)。現在、埼玉大学教養学部准教授。専攻は日本近現代史。
主な著者に『近代日本の徴兵制と社会』『戦場に舞ったビラ 伝単で読み直す太平洋戦争』『宣伝謀略ビラで読む、日中・太平洋戦争』


以下、私のメモ。

毎年現役兵として陸海軍に徴集される適齢男子の数は、日中戦争の勃発した1937(昭和12)年度は約19万人(うち陸軍17万人)、1944(昭和19)年度には一挙に113万人(陸軍100万人)になった。各年の適齢男子中に、現役入営者が占めた割合は、47%から77%に増大した。

1937(昭和12)年の陸軍の総兵力は、現役兵34万人・召集兵59万人。太平洋戦争末期の1945年には、現役兵224万人・召集兵350万人と「根こそぎ動員」された。

「一年兵の上等兵が、二年兵の一等兵に頭が上がらないのである。」「ものを言うのは階級じゃない。入ってからの麦飯の数だ。年次だ。」「古い兵が隠れて初年兵に加える体罰――私的制裁も猛威を振るっていた。」


コメント
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