hiyamizu's blog

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ジークフリート・レンツ『遺失物管理所』を読む

2014年08月18日 | 読書2

ジークフリート・レンツ著、松永美穂訳『遺失物管理所』(CREST BOOKS、2005年1月新潮社発行)を読んだ。

これまでどんな職場にも落着けなかった24歳の青年ヘンリーがドイツ連邦鉄道の「遺失物管理所」に配属になる。そこでは、電車内などで見つかった忘れ物が届けられ、所有者と名乗る人物が現れると書類を記入させ、遺失物の所有者本人である証明を求める。たとえば、大道芸人にナイフ投げをさせたり、子どもに笛を演奏させたり、台本を忘れた女優とはせりふのやり取りをする。

この小説の主人公のヘンリーは、「いつも思いつきで行動する」「何でもお手軽に考える」と非難されることが多いが、育ちが良く、苦労しらずで、能天気。人懐こくて、ちょっとたよりなく、誰もがつい面倒を見てしまい、可愛がられる。権威をものともせず、出世に興味がないヘンリーは、東方の異国から出て来た優秀な数学者ラグーティン博士が差別されることに怒り、身の置き所がなく暴力に走る暴走族にさえ、温かいまなざしを持つ。そして、職場の人妻パウラにストレートに気持ちを告げる。
ヘンリーの姉バーバラはラグーティンに好意を寄せるが・・・。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

遺失物管理所に様々な事情を抱えて様々な人がやってくる。確かに話題にはことかかず、面白く読める。いかにもベテラン作家の手になる安心して楽しく読める小説だ。多少下世話で通俗的ではあるが。

様々な出来事が日々起こる「遺失物管理所」で仕事するうちに、何事にも真剣さを欠いたヘンリーが、仕事に思い入れを見せるようになる。お気楽なヘンリーの成長物語でもある。
ドイツ移民排斥の風潮、企業合理化での人員削減といった現代ドイツが抱える問題も織り込まれている。

まあ、そういった感じだ。


ジークフリート・レンツ  Lenz Siegfried
1926年、東プロイセンのリュク(現在はポーランド領)生まれ。
第二次世界大戦中、海軍に召集されるが、戦争末期に脱走。捕虜生活を経てハンブルクに定住。ハンブルク大学で哲学や英文学を学ぶ。ジャーナリストとして働いたあと、
1951年に『空には青鷹がいた』で作家デビュー
1968年の『国語の時間』で成功を収め、現代ドイツ文学を代表する作家の一人となる。
ドイツ書籍平和賞、フランクフルト市のゲーテ賞、ゲーテメダルなど、数々の賞を受賞している。
『遺失物管理所』は、著者14作目の長編小説で、2003年、77歳の新作だ。


松永美穂(まつなが・みほ)
1958年生まれ。早稲田大学教授。東京大学、ハンブルク大学などでドイツ文学を学ぶ。
訳書にベルンハルト・シュリンク『朗読者』(毎日出版文化賞特別賞受賞)、ジークフリート・レンツ『黙祷の時間』、ヘルマン・ヘッセ『車輪の下で』、ユーディット・ヘルマン『幽霊コレクター』など。
著書に『誤解でございます』など、

コメント
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