hiyamizu's blog

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永井義男『剣術修行の旅日記』を読む

2014年06月14日 | 読書2

永井義男著『剣術修行の旅日記 佐賀藩・葉隠武士の「諸国廻歴日録」を読む』(朝日選書906、2013年8月朝日新聞出版発行)を読んだ。

裏表紙にはこうある。
佐賀藩士、牟田文之助は23歳で鉄人流という二刀流の免許皆伝を授けられた剣士である。嘉永六年(1853)、24歳の文之助は藩から許可を得て、2年間にわたる武者修行の旅に出て、「諸国廻歴日録」という克明な日記を残す。この日記を読むと、命がけの武者修行というイメージが覆される。
文之助は各地の藩校道場にこころよく受け入れられて思う存分稽古をし、稽古後にはその地の藩士と酒を酌み交わし、名所旧跡や温泉にも案内される。「修行人宿」と呼ばれる旅籠屋に頼めば、町の道場への稽古願いの取り次ぎもしてくれる──。まるで、現在の運動部の遠征合宿のようだ。
江戸はもちろん、北は秋田から南は九州まで現在の31都府県を踏破した日記から江戸末期の世界がいきいきと蘇る。千葉周作の玄武館、斎藤弥九郎の練兵館、桃井春蔵の士学館など、有名道場に対する文之助の評価も必読。



この本は、牟田高惇(たかあつ)(本書では通称の文之助)が残した日記(『諸国廻歴日録』)をもとに、著者がおおまかなテーマごとにまとめなおした武者修行の実状を描いたノンフィクションだ。

「武者修行」の一般的イメージは、一か八かの他流試合を挑み、徹底的に打ちのめして、道場の恨みをかうといったものだろうが、実際は全く違う。
藩に伺い、許可を得て、武者修行すると、各藩の城下の「修行人宿」に無料で宿泊できる。手順を踏んで道場に手合わせを申し入れ、日時を決める。試合も実際は稽古であって、勝敗は決めず、手合わせをする。各地の他流派の剣術家と交流し、その後も酒を酌み交わしたりする。他藩の修行者と一緒に旅をするなど、厳しい修行というより、楽しそうな留学といった趣だ。また、江戸後期には藩の壁も低くなっていたことがわかる。

文之助は、多くの道場について自己評価だが「格別の者はいない」と書いていて、優れた剣術家だったようだ。また、人に好かれる人柄のようで、歓待を受け飲み過ぎたり、旅立ちには多くの人が見送りにきたり、武者修行の中で親しい友人を得たりしている。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

なにしろ日記が元なので、「どこの何々道場で試合して、その後・・・」という記述が続くので、一般の人には退屈だろう。しかし、剣術、流派、武者修行へ興味がある人には★★★★(四つ星:お勧め)だ。

武者修行の意外な実態がわかり、若者が他国を旅し、他藩の若者と剣術を通して交流する。江戸時代のロードムービーの趣がある。牟田文之助のおおらかな人柄もあって、藩を超えた若者同士の心からの付き合いが生まれる。やがて、藩を超越して討幕の動きが進む時代を予感させる。
しかし、愛すべき牟田文之助が、明治維新後、士族の反乱「佐賀の乱」に参加し、敗れて懲役刑となり、「出獄後の生活は不明」というのが、悲しい。


現代剣術では、すり足で板の間を素早く進み、飛び込んで竹刀の先端で相手を打つことが多い。しかし、江戸後期の剣術は、竹刀や防具は現代とほぼ同じなようだが、道場の多くは土間やむしろで、しっかり足を踏みしめて、力を込めて相手を打ち込むという、真剣の斬り合いに近いものだった。文之助も一部道場の現代剣法に近いやり方を軽蔑して非難している。

当時は、言葉の地域差が現代より非常に大きかったが、武家同士はほぼ共通の武家言葉で話すので意志疎通できた。しかし、文之助も、荷物持ちの人足とは会話が成り立たずお手上げになったりしている。


永井義男(ながい・よしお)
1949年福岡県生まれ。東京外国語大学卒。作家、評論家。時代小説のほか、江戸時代に関する評論の類も多い。
中国古典の翻訳や著述をしていたが、
1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞、作家となる。
ながい・よしお 49年生まれ。作家。97年『算学奇人伝』で開高健賞。

牟田高惇(通称、文之助)
1830(天保元年)11月24日(1831年1月7日(文政13年11月24日))生まれ、18904(明治23)年12月8日61歳で病没。

220p
江戸到着以来、文之助は鍋島家の菩提寺である麻布の賢崇寺(けんそうじ)にはしばしば参詣していたが、五日、賢崇寺に別れの挨拶に出向いたところ、馳走になった。その席で文之助は借金を申し込み、二斤を借りた。斤はおそらく金のことで、つまり二両であろう。
賢崇寺の僧侶は馳走をした上、金まで貸したことになる。こうした厚遇を受けるのも文之助の人柄ゆえであろうか。(安政2年4月5日)


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