久坂部羊著『嗤う名医』(2014年2月集英社発行)を読んだ。
嫁の介護に不満を持つ老人、豊胸手術に失敗した女、患者の甘えを一切許さない天才的外科医、頭蓋骨に魅せられた男、抱え込んだストレスをプレイで解消する患者に優しい名医、嘘が見えるという内科医。現役医師による可笑しくて怖いミステリー。
「寝たきりの殺意」
寝たきり老人・守山は、介護する息子の嫁に不満だらけだ。しかし、彼は正気のときと認知症が混じるレビー小体型認知症になっており、混乱の中で、妄想が突っ走る。
「シリコン」
子どものころから不運が連続する柘植夕子(つげゆうこ)。コンプレックスを克服するため豊胸手術を受けるが、豊かになった胸は次第に・・・。そして、メスさばきは神業的という名医にかかるのだが・・・。
「至高の名医」
至高の名医にあげられている外科医の清河は、治療に全身全霊をかけているので、同僚医師にも患者にも常に厳しく接する。2年前胃がんの手術を、その後、勝手に自分で大丈夫だと判断し、診察に来なくなった患者がどこの病院でも手遅れだといわれてやって来る。調べてみると前回手術後に・・・。そして、清河は人間が丸くなった。
「愛ドクロ」
顔の外見などどうでもよく、原山良人(はらやまよしと)にとっては、頭蓋骨の美しさにしか美を感じない。真知を妻にしたのも頭蓋骨の美しさに惚れたのだ。幼い少女の頭蓋骨に惹きつけられて頭を撫でて痴漢として捕まる。そんな原山の行き着く先は・・・。
「名医の微笑」
42歳ながら、抜群の技術と集中力を誇る名医・矢崎逸郎は、心臓カテーテル手術で高速ドリルを巧みに扱い、プラークを削る。矢崎医師は変態プレイでストレスを解消していたが・・・
「嘘はキライ」
医師の水島道彦は、嘘を言っている人の後頭部に黄緑色の狼煙が見える。黒瀬ハルカと高校卒業二十周年の同窓会に出席するが、見栄の張り合いする同級生たちのあちこちから黄緑色の狼煙が上がる。同級生に頼まれて、彼は出身大学の教授の後釜争いに巻き込まれことになる。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
医師に掛かる厳しいストレスは実感として感じ取られる。医療現場での経験を反映しているとは思うが、設定が極端な場合が多く、作り物感がぬぐえない。微妙な感情や、雰囲気をもたらす情景描写はほとんどなく、小説技術としては劣る。
久坂部羊(くさかべ・よう)の略歴と既読本リスト