hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

ベルンハルト・シュリンク『夏の嘘』を読む

2014年06月08日 | 読書2

ベルンハルト・シュリンク著松永美穂訳『夏の嘘』(新潮クレスト・ブック2013年2月新潮社発行)

裏表紙にはこうある。
シーズンオフのリゾート地で出会った男女。人里離れた場所に住む人気女性作家とのその夫。連れ立って音楽フェスティバルに出かける父と息子。死を意識し始めた老女と、かつての恋人―。ふとしたはずみに小さな嘘が明らかになるとき、秘められた思いがあふれ出し、人と人との関係ががらりと様相を変える。ベストセラー『朗読者』の著者による10年ぶりの短篇集



「シーズンオフ」:慎ましい男が季節外れの避暑地で出会った女は富豪だった。

「バーデンバーデンの夜」:ドイツの劇作家には、オランダ住む恋人がいた。旅先のホテルのベッドで別の女性と背を向けて寝た男は、その事を・・・

「森のなかの家」:デビューしたもののその後が続かない作家と、最近評価が上がる妻の作家。妻の文学賞受賞が現実見を帯びて・・・。

「真夜中の他人」:機内で隣り合わせ、身の上を語り続ける男の話は、奇妙で、どこまでが・・・。

「最後の夏」:末期癌になり誰にも密かな覚悟を語らず、家族と楽しもうとする老大学教授に、妻や家族は・・・。

「リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ」:長く疎遠だった父を理解し、こだわりを超えようと数々の質問をする息子。父は・・・。

「南への旅」:若いときに振られたことにこだわる老婦人と、真実を語るかつての恋人。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

著者の過去の作品はナチ時代など戦争の影が常にあったが、本作品は現代の米国が主な舞台で、「嘘」(嘘、誤解、言わなかったこと、行き違いなど)により、家族などに生じた亀裂がテーマになっている。

小さなすれ違いが日常生活の中で広がっていく。話も人物も知的ではあるが、ごく普通で、特に大きな出来事があるわけでもなく、他愛ないエピソードを積み重ねて、人生の不確かさ、自分への不安を浮かび上がらせていく。

主人公がドイツ人男性で、恋人はアメリカ人、両者とも国際間を移動する職業が多い。著者の新しい環境を反映しているのだろう。

あとがきで、訳者は、「なんて優柔不断な男性が多いのだろう!」と嘆いているし、「最後の夏」で夫の秘密を知ったとたんに妻がとる行動にも、日本では考えられないと、驚いている。まったく同感である。

タイトルの「嘘」という字がなぜか旧字(多分。少なくとも機種依存文字だ)になっている。私が利用している図書館のデータは文字化けしてしまっている。今どきなぜ旧字を使うのだろうか?


ベルンハルト・シュリンク Bernhard Schlink
1944年ドイツ生れ。ボン大学、フンボルト大学などで教べんをとる。
現在、ベルリンおよびニューヨーク在住。
ミステリーを3冊出版後、
1993年『ゼルプの欺瞞』がドイツ・ミステリー大賞を受賞
1995年『朗読者』(2003年6月新潮社発行)が39か国で翻訳されるベストセラーに
他に、『帰郷者』『週末』

松永美穂
1958年愛知県生れ。早稲田大学教授。
東京大学、ハンブルク大学などでドイツ文学を学ぶ。
『朗読者』の翻訳で毎日出版文化賞特別賞を受賞。
訳書に『車輪の下で』『黙祷の時間』『幽霊コレクター』
著書に『誤解でございます』


「シーズンオフ」
ドイツ人のリチャードが、シーズンオフのリゾート地でアメリカ人のスーザンとレストランで出会い恋に落ちる。短い時を彼女の家でともに過ごす。彼は決して豊かではないオーケストラのフルート奏者で、ニューヨークの安アパートでの生活になじんでいる。愛してしまった彼女との新しい生活に入るか、気の置けない元の生活に戻るか?

「バーデンバーデンの夜」
フランクフルトに住む劇作家には、7年前に知り合ったアムステルダムに住む恋人アンがいる。いまきちんと共同生活の形をとっておらず、互いの家を訪問したり、片方の出張先に出かけて逢ったりしていた。
彼は、自作の戯曲の初演の日に、テレーゼを連れてバーデンバーデンに行き、ホテルのベッドで互いに背を向けて眠る。やがてアンが尋ねる「バーデンバーデンには誰と行ってたの?」。

「森のなかの家」
ドイツからアメリカにやってきた作家の夫と、アメリカン人作家の妻が、半年前に落ち着いて執筆できる森の中の家に引っ越してくる。
彼の評価が下がる一方なのに、彼女の作品は売れ、評価が高くなる。このまま静かな生活を望む夫は、妻が全米図書賞を受賞し、森から出てゆくことを恐れ・・・。

「真夜中の他人」
フランクフルトまでの飛行機の中、深夜に語り続ける隣りの男の不思議な話しはこうだった。男と美しい恋人はクエートの外交官補の招待を受けるが、恋人は誘拐されてしまう。ヨーロッパ女性の人身売買とハーレムが存在するというが、男の話は、さらに・・・。

「最後の夏」
老大学教授は末期のガンを患っている。安楽死を決意して、最後を家族と別荘で楽しもうと思う。決意を知ってしまった妻は・・・。

「リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ」
父ときちんと話したことがない息子は、父と父の好きなバッハ・フェスティバルに行く。しかし、父はバッハを語るが、心の中は見せない。

「南への旅」
施設で暮らし、生きる希望を無くしつつある老婦人は、孫娘に、自分が大学生だった町に行ってみたいと頼む。町で昔自分を捨てた恋人に会うことになるが、事実は・・・。(以下、数行ネタバレで白字)
彼女は、親の決めた裕福な男を夫に選び、貧しい学生を捨てたのに、結局不幸だった結婚生活を他人のせいにして、都合よく事実を曲げて思い込んでいたとわかる。


「なぜ世界はこんなにも静かで、夕闇に包まれるとこんなにも懐かしく優美なのか」マティアス・クラウディス(ドイツの詩人1740~1815)
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