hiyamizu's blog

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岸本葉子『エッセイ脳』を読む

2013年02月26日 | 読書2
岸本葉子著『エッセイ脳 -800字から始まる文章読本』(2010年4月中央公論新社)発行)を読んだ。

エッセイは思いつくまま好きなことを書いているように思いがちだ。しかし、エッセイを書くことを20年以上仕事にしてきた岸本さんのエッセイ作成術には、明晰な論理に基づいたルールがある。この本は、そのルールを、自作エッセイを例に引きながら、分かりやすく解説するエッセイ入門書だ。

『エッセイ脳』というタイトルは、「エッセイを書くとき、私の頭の中で起きていることを、とらえ直し、分析」したことをあらわしているそうだ。
本書は、京都造形芸術大学通信教育部での授業記録に基づく書下ろし。

岸本さんによれば、エッセイとは、
A「自分が書きたいこと」を、
B「他者が読みたいように」書く。

優先順位は、
他者が読みたくなるように>自分が書きたいように(私のこのブログとは違う)


読んでもらうためには、テーマや、起承転結の「結」は重要ではない。
読者を、「ある、ある、へえ-つ、そうなんだ」と思わせるためには、「題材」と、「転(へえ-っ)」の選択が最重要。
話の落としどころ(「結」)は結局ありがちなことになってしまう。それよりも、何に心を動かされたのかという題材である「転」が一番大事。

手順
テーマは与えられる場合が多い。そこでまず、「転」に何を持ってくるかを考える。
そして、話のかたまりを決め、箇条書き/フローチャートのようなメモ書きで構成を書いてみる。
自分が「転」にすると決めたエピソードとテーマとの関係をはっきりさせることにより、まとめのひとこと、「結」を考える。さらに、どんなはじめ方にするか「起」を考える。
1回目は、無地の紙に、メモではなく下書きをする。
2回目は、パソコンまたは原稿用紙に本書きする。
3回目は、全体を初めから終わりまで、上書きする形でリライトする。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

エッセイにもいろいろなタイプがある。日常のちょっとした仕草、セリフから女性のいやらしさなどを抽出してみせる、いなせな向田邦子のエッセイ、切なく懐かしい霧の中からミラノの風景・過去の人々を描き出す、品の良い須賀敦子のエッセイ。声を出して笑わずにはいられないエッセイも、思わず本を置いて考え込まされるエッセイもある。

岸本さんのエッセイは、いわゆる美文ではなく、感動も少ないが、論理的で、分かりやすく、説得力がある。生活の知恵として実用的なものも多い。
そんな岸本さんが、岸本風のエッセイの書き方を自己分析して明快に示していて、分かりやすい。及第点のエッセイを書くには最適な入門書だと思う。

20年以上プロとして、主にエッセイで食べてきた岸本さんは失敗できず、したがって、確実に合格点の取れるエッセイを書き続け、そのための技術を論理的に築き上げてきたのだろう。
私なぞは、内容にはまったく異論がない。ただ、一方では、筆の向くまま、気の向くままに名文を書き流したいとの、出来もしない夢もあるのだが。



岸本葉子
1961年鎌倉市生まれ。エッセイスト。
1984年東京大学教養学部卒後、東邦生命保険入社。
1985年『クリスタルはきらいよ』(就職活動の体験)
1986年退社して中国の北京外語学院に約1年留学
2001年虫垂癌の手術
2003年『がんから始まる』
2012年『ちょっと早めの老い支度』『おひとりさまのはつらつ人生手帖』『わたしの週末なごみ旅』など。
なお、本書の例文は主に『幸せまでもう一歩』『ぼんやり生きていてはもったいない』(共に中公文庫)から引いている。




以下、私のメモ

サイズ(字数)が合わないとき
字数に達しないときは、「承」がもっとも調節がききやすい。調節してもどうしても字数があまるときは、思い切って題材を変える。

エッセイの文章の3つの働き
頭に働きかける「枠組の文(説明)」と、感覚に働きかける「描写」「セリフ」との3つがある。書くときにはこれらを意識して、さらにバランス配分に気をつける。
エッセイでは枠組みの文(例:ひと月後に行ってみた)を使うところも、読者に追体験させたい小説では描写(例:カレンダーの写真が変わっていた)に負わせる方が良い。
読者は枠組み文が続くと負担になり、セリフが入ると一休みできる。またセリフは臨場感があるが、多用せず、印象的なところに効果的に使いたい。

書き出し
いつの間にか入っているのが、(著者の)良い書き出しだ。書き出しに凝るのはリスキーだ。書き出しの直後は短い文を重ね、情報は少しずつ開示する。

比喩
比喩に凝り過ぎると、文章は装飾過剰になりがちです。その結果、不正確になりがちです。・・・比喩を使って観念的な文章になってしまうよりは、具体的に事実を述べる方がよいとも思います。

その他
文末の否定が続くと、読者は突き放された感じがする。「言えない」を「言い難いものがある」など肯定にしたり、「のだ」をくっつけて「言えないのだ」とする。

頭への入りやすさは読んで声で確認する。

息継ぎしたいところに「、」を入れる。

タイトルは、凝り過ぎない、言い尽くさない、興味をそそる、できればユーモアがあるのが良い。読み終わって、「なるほど、それでこのタイトルか」というのが理想。

書いた直後には推敲しない。少しでも距離感を持ち、他者の側に身を置く努力をして読む。


コメント
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