hiyamizu's blog

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ウォルター・ルーウィン「これが物理学だ!」を読む。

2013年02月02日 | 読書2
ウォルター・ルーウィン著、 東江一紀・訳「これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義」(2012年10月文藝春秋発行)を読んだ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)は、授業をユーチューブなどネットで無料公開し始めている。世界中で人気なのが、教養課程のルーウィン教授の物理学入門の授業だ。
なお、この授業は、2013年1月からNHKEテレ『MIT白熱教室』で放映されている。

例えば、エネルギー保存の法則を伝えるのに、教室に重さ15キロの鉄球の振り子をぶら下げ、反対側のガラスを粉々に砕き、返ってくる鉄球が、教授の顔面を打ち砕く寸前で止まる実演をする。

寝て身長を測ると、2センチも伸びるのはなぜ? ビッグバンはどんな音がしたのか? 雷のあと空気が爽やかなのはなぜ? 時間とは何だろう? 宇宙の果ての銀河が光速より早く遠ざかっている理由は? などなど。
教授自らが振り子の重りになったり、スポットライトを使い室内で青空や虹を再現したり、物理学の美しい法則を身近な事象で体をはって説明をする。

教授は言う「複雑な計算よりも私は、物理学の発見の美しさを教えたい」

後半の、教授自身が加わったX線宇宙物理学草創期の激しい研究競争の様子は、読む者を興奮させる。
講義はすべてウェブ公開されている。

原題:“FOR THE LOVE OF PHYSICS From the End of the Rainbow to the Edge of Time ? A journey Trough the Wonders of Physics”



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

確かに、物理学の美しさに魅了されることは大切なことだ。しかし、ルーウィン教授の授業は、まるでパフォーマンスだ。TVやネットの映像向きだが、書物向けではない。
いかにもアメリカ的で、印象には残るが、これで法則の考え方が身につくのだろうか。私は、数式の美しさ、不思議さも大切だと思うのだが。数式は恐怖心を捨てて、ただ全体の形と、その意味するところを捉えるようにすれば、面白みがわかると思うのだが。

マクスウェルの方程式四つ全部を初めてこんなふうに目の当たりにし、その完全さ、美しさ…を鑑賞する機会は、きみたちの人生でたった一度、これっきりだろう。

この部分はまったく賛成だ。私も電磁気学の授業で、フレミングの右手だ、左手だと個別の法則を習い、うんざりして、やる気を無くしていた。しかし、教科書の最後の方で、マクスウェルの方程式が出てきて、その見事さ、美しさに感動した。今までの個別の事象、法則が、この方程式から全て導かれるのだ。最初にこの式から始めてくれればと思った。
わざと単位を落として、また最初からもう一年電磁気学の授業を受けた。マクスウェルの方程式を知ってから電磁気学の全体がよく見え、理解できたような気がした。

著者は「私は実験物理学者なので偏った見方かもしれないが」と断っているが、物理学の基本は測定にあり、今のところ実験的に証明できないひも理論、超ひも理論は物理学であるか疑問だという。これはいくらなんでも偏見だろう。実験物理学と理論物理学があるのだから。

また、今でもナチスに追われる夢を見るという教授は延々とその体験を書いているが、イスラエルに厳しい私には、物理学の本になんで関係ない話を書くのかと鼻白む。



ウォルター・ルーウィン Walter Lewin
1936年オランダ生まれ。マサチューセッツ工科大学教授
1965年オランダのデルフト工科大学で核物理学の博士号
1966年マサチューセッツ工科大学の助教授
70年代のX線宇宙物理学において数多くの発見をする。

東江一紀(あがりえ・かずき)
1951年生れ。北海道大学卒。マイケル・ルイス『世紀の空売り』、ドン・ウィンズロウ『犬の力』など。

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