hiyamizu's blog

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中島京子『小さいおうち』を読む

2011年02月28日 | 読書2


中島京子著『小さいおうち』2010年5月文藝春秋発行、を読んだ。143回直木賞受賞作。

戦前の東京市西部の中産階級家庭、赤い三角屋根の洋風の小さい家で、美しい奥様と過ごした住み込みの女中タキが、60年以上の時を超えてかっての日々を振り返る。
奥様は再婚でぼっちゃんが一人、やさしい旦那様と3人家族。2畳しかないがタキの部屋もあり、 この家に最後まで仕えるつもりのタキ。
しかし、戦争が激しくなってタキが郷里山形へ帰り、やがて戦争が終わるまでがタキの口で語られる。最終章では、健司が大叔母タキの過去を訪ね、秘密を問いかけることになる。



中島京子の略歴と既読本リスト



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

特に何がおこるでもない。丹念に戦前の生活を描いていく手作りの小説だ。戦争になだれ込んでいく時代にも庶民は楽しみを、美しい物を求める生活があった。とくに奥様はきれいなものが好きで、自分もきれいで、人を好きにしてしまう人だった。
奥さん、旦那さん、部下の青年、タキの恋愛模様が暗示されるが、今時の“驚愕”“感動”の小説と比べると驚くほどのものでもない。つまり、この家の3人家族とタキの物語であるが、主役は戦前の中産階級の暮らしぶり、生活感覚の歴史そのものだ。



楽天ブックス著者インタビューで中島さんはこう語っている。

構想を練り始めてから執筆にかかるまでに約2年ありましたので、その間に神田の古本屋や国会図書館、ネット書店などで、その時代のものを探したりしました。女中さんが出てくる話、という構想は割と早くから決まっていたため、有力な情報源となったのはやっぱり当時の婦人誌ですが、当時のレストランガイドや旅行案内なども読みました。・・・とにかく登場人物が本当に読んでいただろう資料を使って書きたい、と思ったので。
歴史の年表のような大枠だけが後に残り、後世に伝えるほどのことじゃない小さなことは押し流されてしまう。でも、小さいところにむしろ、時局の雰囲気がよく表れていると思います。物語には出てこない、こうした市井の人々のエピソードに多く触れたことで、戦時中とはいえ、私たちとは一線を画した人々が眉間にシワを寄せてストイックに生きていた、というわけではなく、今と同じように笑ったり喜んだりして生きていたことが実感できて、知ってよかったなと思います。



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