hiyamizu's blog

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村上春樹『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』を読む

2011年02月24日 | 読書2
村上春樹著『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2009』2010年9月文藝春秋発行、を読んだ。

1997年から2009年にかけて(『アンダーグラウンド』刊行直後から『IQ84』のBOOK1,2を書き終えた時期)の、村上春樹へのインタビューを18本集めたものだ。村上春樹は国内ではインタビューしないと思っていたが、内7本は国内でのものだ。
作品そのものについては読者に任せ、著者自身の解説を語ることはないのだが、創作の背景、その思いなどを少しでも正確に伝えようと誠実に対応している。村上春樹、その者、その生活もかなりはっきり浮かび出て、愛読者には見逃せない本だ。

あとがきで村上春樹は語る。
小説家になって三十年以上経つが、これは僕にとって最初のインタビュー集になる。・・・新刊が出てから数カ月は、その本については何も語らないということも、僕のひとつの基本方針になっている。

あるいはまたその物語が生まれた事情や経緯に、多くの読者は興味を抱かれるかもしれない。執筆に関わるちょっとしてエピソードを披露して、それなりに楽しんでいただけるかもしれない。・・・僕は創作のプロセスや、執筆の技法のようなものを秘密にしようというようなつもりはないので、そういうテクニカルなものごとについて語ることには、まったく抵抗はない。尋ねられれば、そしてもしそれがうまく言語化できるものごとであるなら、なんでも正直にありのまま答える。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

村上春樹がどのようにして小説を書くのか、どんなふうに考えて次々と違うタイプの小説を産み出してきたのかを率直に、なんとか言葉で説明しようと誠実に努力している。

夜10時には寝て、5時に起きて、午前中は小説を書いて、午後からは本を読んだり、身体を鍛えたり、極めてストイックな生活を送っている。

「小説を書いているときは特殊な人かもしれないが、普段の時はごく普通の人だと自分では思っているので、街を歩いていて突然『村上さんですか?』などと言われると、一瞬変な気がする」などと語っている。

ファンにはお勧めだ。小説というものは、それを読むだけでも充分なのだろうが、たまには横から見てみると、その深さがよくわかるような気がして、味わいが増す。



以下、私のメモ

スプートニクの恋人
小説はどう読んでもいいものだけど、僕から見ると多くの人はこの『スプートニクの恋人』という小説をストーリー中心に読もうとしすぎているんじゃないかという気がします。
・・・
「ぼく」と「すみれ」と「ミュウ」とにかくこの三人だけ設定して、何がどんなふうになるかはわからないけれど、ともかく文章コンシャスでもっていく。・・・一種の文体のショーケースみたいなものですね。
・・・
僕は徹底的に書き直します。『スプートニクの恋人』だって、書き上げてから一年以上かけて、何十回か書き直している。


海辺のカフカ
人間の存在というのは二階建ての家だと僕は思ってるわけです。一階は人がみんなで集まってごはん食べたり、テレビ見たり、話たりするところです。二階は個室や寝室があって、そこに行って一人になって本読んだり、一人で音楽聴いたりする。そして、地下室というのがあって、ここは特別な場所でいろんなものが置いてある、日常的に使うことはないけれど、ときどき入っていって、なんかぼんやりするんだけど、その地下室の下にはまた別の地下室があるというのが僕の意見なんです。・・・ただ何かの拍子にフット中に入ってしまうと、そこには暗がりがあるんです。

(外国の人の質問は)「謎が謎として残っていくというのは、それは日本的なことか」という質問が多いです。


カーヴァーについて
小さなフラグメントから始めて、それをどんどん自由に膨らませていって、ひとつの物語にする。第一稿はほとんど一息で書いてしまう。書き終えてから何度も何度も書き直す。情景をなるたけヴィジュアルに書き込む。文章を必要以上に重くしないで、物語のフットワークを快活に保っておく。説明しすぎない。物語にすべてを語らせる、はっきりとした起承転結はつけないけれど、物語が始まって終わったという感覚がそこにはなくてはいけない。そういうようなところでは、僕とカーヴァーの書き方の姿勢は基本的に似ているんじゃないかと思います。出来上がったものはとても似ていませんが。


妻の陽子さんについて
僕らはもう三十年以上夫婦として暮らしているし、お互いのことをよく知っています。そして彼女の批評はきわめて的確だし、フェアーです。それは僕にとって幸運なことだったと思います。もちろん夫婦だから、基本的に僕のサイドにたってはいるんだけど、読者としての彼女はあくまで中立的であり、自立的です。・・・あるときはとんでもなく辛辣になる。僕がそれで不快な気持ちになることもあります。というか、頭に来ることだってある。
・・・
・・・日本においては・・・編集者は専門職ではなく、あくまでサラリーマンだからです。しかし、彼女は・・・どこにも異動しない。ずっとそこにいます。よくも悪くも(笑い)。・・・


その他
―村上さんを見ていると、作家でいちばん大事なのは、やっぱり健全な肉体だなと思いますね。(古川日出男)
村上 そうですね、健全な肉体に宿る不健全な魂(笑い)。
・・・
人の精神というのは地表の部分をたかくしようとすればするほど、地下の部分も同じだけ呼応して深くなるわけです。つまり人が善を目指そうとすれば、悪というのは補償作用として必ずその人の中で、同じぶん伸びていきます。




コメント
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