hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

山田風太郎『人間万事嘘ばっかり』を読む(1)

2011年02月13日 | 読書2
山田風太郎著、日下三蔵編『人間万事嘘ばっかり 山田風太郎エッセイ集成』2010年7月筑摩書房発行、を読んだ。忍法シリーズで知られる作家山田風太郎の嘘のような、諧謔に満ちたエッセイ集の最後の5冊目。
今回は、その(1)

字に自信のない山田さんは、色紙に何か書くことはない。たまたまホロ酔い機嫌のときに、出された色紙をおもわす手に取り、金粉の方に何か書いた。どうもおかしいと、裏の白い方にも悪筆をふるった。あとから調べると、ふつうは白い方に書き、目上の貴人などに書いて差し上げるときは金粉のほうに書くということを知った。
(私も知らなかったが、普通の人は、寄せ書きなども白い方に書きますね。)

新進作家に囲まれていた江戸川乱歩が山田さんのところへ来て、
「君はほかの連中と少し変っている。僕はそういう眼で君を見ているからね」と言った。・・・
のちに、自分に推理作家の才能がないと自覚するまで約十年間、若い私を推理小説の世界に縛っていたのは、大乱歩のこの言葉にあったと思う。
さらにあとになって、乱歩没後、いろいろな作家の回想録に、乱歩から私と同じような言葉をかけられたことがしるされているのを読んで、私は唖然としたのだが。・・・


巨人が大好きな山田さんは、布団に入ってラジオで野球中継を聞く。
巨人戦の場合、相手チームが攻撃に回ると、ラジオを切ってしまうのである。そして大体時間を見はからって、巨人の攻撃がはじまったころ、またスイッチをいれる。いっそ、表、裏、ぜんぶ巨人が攻撃ばかりしていたら、負ける心配はないのだが、などと考える。


本屋に行くと、本が読んでくれと叫んでいるような気がする。
自分の本を読んでくれた人に感謝しなければならない。私は、そのうち小説などは、読んでくれた人に著者の方が金を払う時代が来ると思っている。

(まったく。本を読む人より、書く人の方が多いのではと言われる時代なのだから。)

嘘だろうと思う出来事がこれでもかと並んでいるが、最後の自筆死亡記事に驚かされる。
作家の山田風太郎氏が・・・脳溢血のため・・・自宅で死去した。七十五歳だった。(パーキンソン病と糖尿病を患いながら、毎晩オンザロックを欠かさなかったが、)コップを飲み干したあと、バサリと食卓に伏した。夫人が声をかけると、「死んだ・・・」と呟いたという。(週刊朝日1996年8月、本人筆)

実際死去したのはこの4年後。

1 人間万事嘘ばっかり
2 かんちがいもおっかない
3 私の発想法
4 わかっちゃいるけどやめられない
5 風山房日記
6 終りの始まり



山田 風太郎
1922(大正11)年1月、兵庫県養父郡関宮の医家に生れる。
5歳で父を12歳で母を亡くす。
1949年、「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で第二回探偵作家クラブ賞を受賞
1950年、東京医科大学を卒業するが、作家として身を立てる決心をする。
『甲賀忍法帖』『くノ一忍法帖』を初めとする、風太郎忍法を生み出し、忍法ブームをまきおこす。
1973年より『警視庁草紙』『幻燈辻馬車』『明治波涛歌』など、独自の手法による“明治もの”を発表、ファンをうならせる
2001年7月28日尊敬する江戸川乱歩と同じ日に死去。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

皮肉な見方で世の中を見たり、驚くほどの自虐ネタを打ち出したり、私はかなり面白く読んだ。しかし、真面目な人、というより真面目過ぎる人には反感を買うかもしれない。
まあ、ともかく貴重で絶滅品種の奇人だ。

自宅でコマーシャルの撮影をさせてくれという依頼があったが、山田風太郎はにべもなく断った。しかし、「モデルは扇千景さんですが」との言葉にあっさり前言を翻し了承する。昭和42年、扇千景、花のさかりのときだ。撮影が終わり、スタッフからの声で2階から駆け下りて、おもわず着替え室になっていた応接間のドアを開けた。ちょうど、扇さんが着替え中だった。

私も似たような経験がある。小学校低学年の頃のことだ。自宅の門のところで映画を撮影するので、ロケ隊に一部屋貸すことになった。十朱幸雄(とあけ ひさお、十朱幸代のお父さん)と、名前がわからないが、ものすごく美人の女優さんがいて、子供心にもドキドキした。廊下の端から顔を出したら、ドアが開いていて女優さんのいる部屋が見えた。着替え中だった美人女優は、ちらりと私の方を見て、「なんだ子どもだ」と思ったのだろう、そのままスカートをめくって、着替えを続けた。私は雷に打たれたようにびっくりして、思わず顔を引っ込めてしまった。私は一人っ子で、母親も子どもの前では着替えないような人だったから、「あんなにきれいな人がドアを開けたまま着替え、人前でスカートを平気でめくるのだ」とショックだった。思えば女性不信に陥ったきっかけになった事件だった。

長くなったので、その(2)に続く。


コメント
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