『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  86

2009-11-16 07:17:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 肴を焼いていた火も細くなっていく、宴の場を闇が包んでいく、話に沸いていた宴も終わった。
 ポリメストルとラミドトスは、明日の戦いについて、飲みながら、食べながら話した。彼ら二人の意気は盛んであり、戦果の見積もりをしていた。しかし、彼らの知らないところで、ひとつしかない命の存続に脳漿を搾って、思案しているなど、微塵にも考えていなかった。
 明朝、両軍は、落人たちの陣所に攻め込む段取りにして、野営の寝についた。遠くからの潮騒を聞き、荒野をうろついて廻る小動物や獣の声を聞きながらの野営の営みであった。
 満天の星は、降ってくるように輝いているが、陸風が海に向かって、荒野を渡り始めた。荒野には、夜明け前の静けさが漂っている。
 風がラミドトスの頬をなでる、見張りの兵がゆする。ラミドトスは、ただならぬ気配を感じた。
 『軍団長。様子が変です。』
 『何っ!』 彼は、立ち上がって、闇の中を透かし見た。
 『軍団長。この方角です。』
 見張りの兵の指差す方角に目を移した。そこには、人が動いていた。
 ラミドトスは、わめいた。
 『皆を起こせ!皆を起こすのだ。急げ!』
 彼は、矢継ぎ早に指示を出す。
 『ポリメストルの隊に連絡しろ!隊長どもに早く隊を整えるように言うのだ。急げっ!』

第2章  トラキアへ  85

2009-11-13 06:51:18 | アルツハイマー型認知症と闘おう
 アエネアスは、各隊を廻って兵たちを激励した。いずれの隊も、力強く鬨の声を上げ、アエネアスに答えた。
 各部隊は、静かに出立して行く。
 アレテスの隊は、狩猟に赴く風を装って、遠く迂回して、布陣地点を目指した。 パリヌルスの隊は、海岸ぶちを歩んで布陣地点を目指す。彼らは、軍装の上に漁師の格好をしている。
 最後にイリオネスが率いる隊が、長い隊列で布陣地点に向けて滞在地を後にした。彼らは、布陣地点まで、誰にも気づかれないように気を配り、急ぐことなく、木立、潅木の茂みに身を隠すようにして、歩調を忍ばせて歩んだ。
 アエネアスは、三人の従卒を従えて、予定戦場に向かった。従卒のうち二人は、戦場諜報の斥候である。知恵を絞った作戦計画であり、万全の陣形であり、必勝の攻撃手法でこの戦闘に挑んだのである。でありながら、勝てるか。望みを達することが出来るのか。このことを思い続けている心の中の一隅を覗き見た。しかし、戦場に着くころには、そのような思いは、どこかに消し飛んでいた。
 彼は、襲い来る眼前の敵との、闘いに集中できる自分を自覚した。彼は、無意識に握っていた握りこぶしを開いて、闇の中で、じいっと見つめた。そこに見たものは、虹色の光彩を放つ明日の風景であった。

第2章  トラキアへ  84

2009-11-12 13:12:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネス、パリヌルス、アレテスの三人は、部隊編成の打ち合わせを終えて、それぞれの隊に引き上げた。
 彼らは、兵たちとともに夕食のときを共にした。
 兵たちの口数が少ない、戦いのときを控えて、緊張感が漂っている。アレテスは、この緊張感を拭い取ってやりたいが、出来そうなことではなかった。
 兵たちは、食事のあと、軽く仮眠をとった。耳朶を打つのは潮騒と獣たちの遠吠えの声であった。
 時は来た。隊長が起きる。副長が兵たちの中を駆け回る。兵たちは覚醒した。軍装を整える。隊列を組んだ。アエネアスは、隊を見下ろす高みに立っていた。
 『諸君!肩の力を抜け。体が堅くては、刀槍が走らん。さあ~、拳を握れ、開け。小指だけに力をこめて拳を握れ、拳を開け。手の中に何が見える。もう一度繰り返す。拳を握れ、開け!拳の中にあったものが見えるか。よく見るのだ。そこにあるのは、勝利だ。勝利が見えるか。』
 『勝利が見える。俺らが、勝つ!』『勝つ、必ず勝つ!』 鬨の声があがった。
 『諸君!勝ちが見えたか。明日の生が手の中にある。遂に来たのだ。生と死の雌雄を決するときが来た。敵を倒さなければ、我々が生きていく地がない。敵を倒せ!敵を倒すのだ。』 アエネアスは、力をこめて念を押した。

第2章  トラキアへ  83

2009-11-11 07:15:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、一同18人を背中まで貫くような鋭い目線で見つめて、言葉を放った。
 『次に、命令系統について伝える。俺の指名する三人の隊長が大隊に指令し、指揮を執る。中央隊の200は、イリオネスの指示に従う。左翼の2隊は、アレテス、お前が統率する。右翼の2隊は、パリヌルス、お前にゆだねる。各隊長は、この三者の指示に従うこと、いいな。これは、我々が敵の虚をたくみに衝いて、勝利する。この二字のためである。兵の錬度は、我々の軍団の方が上だ。自信を持って攻めろ!計画では、敵に負けないところまで到達している。敵の殲滅は、作戦の遂行にかかっている。全滅するのは敵であって、我々であってはならないのだ。いいな。判ったな。』
 アエネアスは、一同を見渡した。彼らの目は、爛々と燃えていた。
 『各隊長は、指揮を執る大隊長と相談の上、隊を編成する。攻撃については、俺の指示で戦端を開く、いいな。ここまで説明したこと、一同、心得えたな。出発は、各隊ごとに出て行く。俺は各隊の出発前に隊の皆に声をかける。では宜しく頼む。質問はないな。よし、解散する。』
 明日に続く今日が暮れて行く、深い藍色の帳が下りてきていた。

第2章  トラキアへ  82

2009-11-10 06:35:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『皆、聞いてくれ。我々の軍団は、一隊の編成を基本的に100人体制とする。』
 アエネアスは、言い終わって、一堂の目を見た。目つきは、アエネアスの口元を、そして、アエネアスの鋭い目をくい入るように見つめていた。
 『ここに並べた石を見るのだ。この赤みがかった4つの石が敵である。おそらくこうであろうと思っている。こちらの石が我が軍団である。敵の勢力は約400余り、敵は、我々が200余りと思っているはずである。中央のこの3隊が我々の200の部隊だ。中央の前衛隊が100、その左右後方に50で構成した2部隊がいる。この3隊の左右に100で構成した部隊を2隊づつ埋兵とした伏兵を配置して、敵と対峙する。各隊には、隊長一名、副長一名が兵を指揮して敵に当たる。判るな。君たちが、その役務につき兵を指揮するのだ。俺の思いでは、敵の最も弱いところはここだと思っている。ポリメストルの軍と派遣軍の間のこの部分だ。中央の第一隊が、この部分を衝きぬいて、敵の後方に廻る。敵は、一時、第一隊後方の
50で構成した部隊に襲い掛かると考えている。中央隊は、敵のウイークポイントを衝きぬいて敵の後方に廻ったタイミングを計って、左右に埋めてある合わせて400の部隊が敵に襲い掛かり、押し包んで、これを殲滅する。』
 話をここで区切った。話の中には味方にも明かさない策が隠されていた。
 アエネアスは、ひと呼吸おいた。

第2章  トラキアへ  81

2009-11-09 06:45:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夜の訪れの遅い夏の宵であった。打ち合わせの場に一同が顔をそろえた。緊張の面持ちで統領のアエネアスを迎えた。彼を待つ一同の中には、イリオネスの配慮によってアカテスもいた。アエネアスは、アカテスに声をかけた。
 『おっ!アカテス、傷の具合はどうだ。快方に向かっているか。お前を訪ねてやることが出来なかった、詫びを言う。イリオネスから聞いていると思うが宜しく頼む。』
 『いえ、統領。今、危急の真っ只中です。気にかけられないように。傷の具合は快方に向かっています。安心してください。』
 アカテスと言葉を交わしたアエネアスは、一同を見渡した。
 『諸君ご苦労!遂にそのときが来た。判るな。敵と雌雄を決する。敵を殲滅しない限り、我々に生はない。心してくれ。これから、作戦の構想を詳しく説明する。我々は、深夜に、この地を出発して、陣を敷く地点に向かう。布陣する地点まで約12キロくらいある。歩いて3時間くらいだ。敵に気づかれない様に、闇にまぎれて布陣地点に向かう。いいな。これから、陣形と攻撃について説明する。』
 アエネアスは、一同の中央に腰を下ろし、用意してきた石を地面の上に並べた。

第2章  トラキアへ  80

2009-11-06 07:38:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アレテス、どうだった。勝利は我々のものか、お前にとって戦いやすい地形か、どのようだ。ま~、少し休め。夕飯前に統領に会議を開こう。』
 パリヌルスは、座を立って、アレテスと連れ立って統領のいる方に向かった。
 『統領、海上の偵察の者たち、また、戦場の視察に出ていたアレテスたちも全員無事に帰ってきました。彼らから聞いたことを報告いたします。上陸した敵の兵数は、約220人と言っています。ポリメストル軍勢と合わせて450くらいとなります。ポリメストルも敵の大将も、なかなか体格のいい奴らしいです。これでおぼろげですが敵の全体像がつかめてきました。夕飯の前に会議の招集をしましょうか。ご指示ください。』
 『イリオネスはどう言っている。イリオネスを呼んでくれないか。アレテス、予定の戦場を見てきたか。パリヌルス、四人で事前の打ち合わせをする。』
 『判りました。統領。』 イリオネスが来る。四人は顔をそろえた。
 『イリオネス、先ほどの件、手配はうまくいったか。』
 『え~え、段取りは、うまくいっています。』
 『イリオネス、パリヌルス、アレテス、会議は、夕飯前に行う。隊長の数だが、お前たちのほかに、隊長が7人、副長が7人の合計14人だ。人選は任せる、頼んだぞ。ところで、イリオネス、上陸戦で負傷したアカテスだが具合はどのようだ。お前の考えはどうなんだ。』
 『アカテスの参戦は、無理です。こちらの責任を任せようと考えています。』
 『よし、判った。一同が揃ったら声をかけてくれ。』

第2章  トラキアへ  79

2009-11-05 07:38:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 海上偵察に出ていた各船が帰ってきた。パリヌルスは、波打ち際まで出て彼らをむかえ、その労をねぎらった。
 『お前らよくやってくれた。礼を言うぞ。デカタス、それでどうだった。敵の兵数はどれくらいだ。』 と問いかけた。
 『隊長、報告します。上陸した敵の兵数は、約220と言ったところです。船旅の疲れは、あまり無いように見受けました。以上です。ほかに何か質問がありますか。』
 『敵の大将は、どんな奴だ。遠目だから判らないか。釣った魚の味はどうであった。うまかったか。』
 『敵の大将の体格だけは、見当がつきます。私も身体つきは大きい方ですが、私くらいの大きさです。迎えに来ていたポリメストルと思われる領主、こいつは大きかったな。我らが統領と同じくらいかな。でかい奴でした。肴は、うまかったですよ、すきっ腹でしたし、海水をかけて食べました。』
 『そうか、よくやってくれた。ありがとう。』 と話を終えた。
 そのとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。アレテスが帰ってきた。パリヌルスは、たちあがり、手を振って招き寄せた。

第2章  トラキアへ  78

2009-11-04 11:35:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、イリオネスを呼び寄せた。
 『イリオネス、作戦計画が出来上がった。兵たち皆の様子はどうだ。これで負けないと言うところにたどり着いた。敵の殲滅は、作戦計画の実行にかかっている。布陣については、時間的に余裕を持って出発する。兵たちの夕食は、平常道りにすればよいが、戦闘開始前に食べる食事を兵たちに持たせるように段取りをしておいてもらいたい。すきっ腹では、戦闘時に力が出ない。いいな。頼む。以上だ。ああ、それから、アレテスが帰って来たら、作戦指令を隊長宛に発する。』
 アエネアスに余裕が出てきていた。
 パリヌルスとオキテスは、海上に偵察に出した者たちの帰りを待っている。重ねて、アレテスたちの帰りをも待ちわびていた。
 アエネアスは、皆が寄り集まっているところに身を寄せてきた。林の中から、西の方角を見ながら軽くつぶやいた。
 『今日の太陽は、沈むのがのろいな。』
 『そうですね、今日の太陽は、沈むのに手間取っているようですね。』 と答えている。
 この会話を傍らで聞いていたパリヌルスは、アエネアスの緊張が、やや解けていることに気がついた。パリヌルスは、このような雰囲気の出てきた統領に、えも言われぬ安心感を覚えた。