『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  269

2010-08-06 09:27:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 キノンは、抜き身で携えている山刀を右手に持ち替えて熊の前に立った。熊はまだ温かかった。キノンは、どこから切り裂こうかと考えた。
 『オロンテスさん、どこからひらこうか』
 『そうですね、この際、背中からどうです。安心して食べれる部位から切り取ったらどうです。私ら二人はどうするか、キノンさん、貴方の指示に従いますが』
 『よしっ!判った。二人はこちら側にいてください』
 入用な肉の切り取り作業にとりかかった。山刀を意のままにふるって、皮を剥ぎ、一同8人分をまかなう量を切り取った。次に、三人が力を合わせて、腹を切り裂きやすいように熊の体を変えて、うす腹の肉を切り取った。
 『オロンテスさん、私、コイツの胆を切り取るので少々待ってください』
 『判った』
 キノンは、手を血にまみれさせながら、熊の内臓を切り分けて胆嚢を切り取った。三人は、血にまみれた手をそこいらの草でふき取り、切り取った肉を持って、その場を引き揚げた。あとには獣の濃密な血の匂いが漂っていた。
 キノンは、切り取った熊の胆嚢を草で丁寧に包み、荷役の背にしている箱に収めた。
 この時代、ギリシアをはじめ、アジアの西の地方において、獣の胆嚢に薬効があるということが、すでに知られていたらしい。


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