『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第7章 築砦 １１

　『いいですね！その話、のります、のります』
　イリオネスとテカリオンの目が合った。互いが相手の心の内を探りあった。目は心の窓というが、開いた目から相手の心のうちに侵襲することは容易な技ではない。目線のスパークが、瞬時、宙をさまよった。
　『テカリオン、聞きたいことがある。売り渡した舟艇の評価はどうであった。また、方角時板のうけはどうであった。聞かせてくれ』
　『いいですとも、二つともはなはだ好評でしたな。舟艇は、船速が出やすいところがうけて、納入先から高い評価を得ています。また、方角時板ですが、これも大変に評判がよく、その便利さがうけて、引っ張りだこで売れました。どこにもない、俺だけが扱っている品物であるということで、私の懐が潤いましたな。本当にありがとうございました。これからも、あの種の商品がいいですね』
　『おおっ、お前なかなか言うな。ところで聞いておきたいことがある。小麦の取引の様子はどんな具合だ。俺たちが、このクレタに来て、今度は小麦を買う身になるかもしれん。今すぐというわけではないが』
　『そうですか。クレタでは、小麦が少々不足しているらしいですな。ここ数年、クレタでは、小麦の不作が続いています。この時期はまだいいですが、来年の夏の始まるころから収穫期までの需要が盛んになると、私は見ています』
　『ほう、そうか。そのようか。俺たちもしっかりと物事について考えなければならんということだな』
　テカリオンは、自分の持っている予測について語った。