アキレスの陣営をプリアモスが去った日、陽が昇りきらない間にアキレスは、アガメムノンの幕舎を訪ね、昨晩、プリアモスにヘクトルの遺体を引き渡した顛末を伝え、ヘクトルの葬儀が終わるまで、休戦を約束したことを告げた。この件については、アガメムノンは不快感を示した。アキレスの戦線復帰とその戦果を天秤にかけ、事情を勘案して、まあ~、いいではないかと了解した。それは、アガメムノンの功利的な判断であった。連合軍としてはアキレスに好意的であった。特に参謀的立場のオデッセウスにとっては、うれしいことであった。彼は、この葬礼休戦を利用して、両軍を比較検討して、これからの戦争展開をどのように進めるかを考えていた。そんな時、オデッセウスがトロイ城市に潜入させておいたスパイが戻ってきたのである。彼の持って帰った情報は、ヘクトルなきあとのトロイの状況であった。オデッセウスは、その者からの報告をうなずきながら詳しく聞き取った。彼は、両軍の分析を終えたあとに、自分自身がトロイへ情報収集に潜入する必要があることを悟った。
