『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  407

2014-11-19 10:55:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、明日の会議に控え、ニケの船上で沈思黙考、ただひたすらに考える人であった。
 『我々はどうあらねばならないか。財務は健全でなければならない。今は不安な財務状態だ。健全化はできるのか、健全化するにはどうするかだろうが』
 彼は自分自身を戒めた。自問自答に声を出したらしい。
 『軍団長、今、何か言われましたか?』
 『おう、何か聞こえたか?聞こえたとすれば俺の独り言だ』 
 ニューキドニアの浜が見えてきた。
 『おう、オロンテス、ご苦労であった。いい明日を迎えよう』
 『え~え、そうします。何かするべき仕事があるようでしたら申し付けてください』
 『判った。今はない』
 今日は終わった。オロンテスは何かを考えながら沈みゆく太陽を見送った。

 夜が明ける、陽が昇る、朝の光のその中に、朝行事の飛沫がきらめいていた。
 『お前、何やっている?』
 『こうしないと、水が冷たい!』
 『そうだな、同感、同感!』と言いながら、冷たい水の感触を遠ざけようと朝行事を終えていく様子がうかがえた。
 『おう、パリヌルス、おはよう』
 朝行事を終えてきたイリオネスは、これから朝行事に向かうパリヌルスに声をかけた。
 『おはようございます』
 『パリヌルス、頼みだ。俺は考え事で忙しい。集落を見まわってドックスのやっている補強工事の進捗を見てきてくれ』
 『判りました。報告は会議の時でよろしいですね』
 『おう、それでいい』
 短い会話を交わしたイリオネスの頭の中では、今日の会議の議事進行の段取りが一気に組み立てられた。『これでいける!彼らのやる気を全開にしてやらねばならんのだ』
 彼は結果を問わずとも事が成るの確信の決断をした。『脚下照顧、一歩前へ、事は成る!』であった。
 宿舎へ戻る途中でユールスを連れたアヱネアスとも朝のあいさつを交わした。彼の気持ちは『晴れ!』であった。
 宿舎に戻ったイリオネスは、やや大きめの木板に何事かを書きつけた。
 『先見、深慮、大胆実行』その成果をまぶたの裏に描いた。イメージは思いのほかクッキリと浮かんでいた。
 『何事も考えるよりも生むが易い!さえぎるもの何ぞ、踏み破る千山万岳煙が如しだ』
 しかし、どこかで声がした、耳には聞こえない、心の中の耳に届いた声であった。『イリオネス、なめるなよ!』間髪入れず『充分、承知!』と答えた。


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