『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  512

2015-04-23 07:47:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 歩行は、順調といえた。左手下方の遠くにソニアナ集落の灯火を目にして、一行の者たちは駆けだしたい衝動を覚える、その気分が彼らの歩速を速めた。程なく、一行は宿坊の戸口に立った。
 クリテスが声をかける、飛び出してくる主人。
 『想ったより早くのお帰りでしたな』
 『ご主人、松明をありがとう。今夜は月のない夜なのかな?』
 『月の出は、真夜中近くです。二日前辺りからです』
 『ほう、そうか。それはありがたい』
 クリテスは、手を打って喜色を浮かべた。彼はデロスでの体験を踏まえてアヱネアス統領の運の強さを推し量った。
 宿坊の主人が声をかけてくる。イリオネスが聞きとめる。
 『ご主人、何でしょう?』
 『皆さんの夕食支度ができています。足をすすいで疲れをお取りください。それを終えられたら食堂の方へ、どうぞ』
 『ご主人、ありがとう!クリテス、お前、判っているよな』
 主人は『では、、、』と告げて奥へ去る。
 『皆さん!足のすすぎはこちらですよ』と言って、クリテスが彼らを案内する。ソニアナの広場を迂回して、小川が流れている。せせらぐ川の瀬音が耳に心地よかった。
 春先である、水量も十分といえる、小川の岸に腰をおろし足を洗った。疲れが水に溶けて流れ去る。気持ちが高ぶってくる、彼らは足だけとは言わず、頭の先から足の先まで洗い流した。
 『アヱネアス、よかったな、明日の朝行事のことをちらっちらと考えながらここまで歩いてきた。そのかいがあって、この小川だ。この小川があって朝行事ができるありがたい。朝行事をやってすがすがしい気分でイデー山の登頂をやりましょう』
 『願ったりかなったりだ、安堵した。すがすがしい気分で山の頂上に向かう』
 イリオネスは一同を促して宿坊へ戻った。迎えに出た主人が目を見張った。
 『お~お、皆さん、すかっとされていますね』
 『おう、ご主人、貴方の配慮があればこそ、この気分です。今日一日の疲れがなくなりました。夕食の席に案内してください』
 『さあ~さ、どうぞ!』
 彼らは食堂の席についた。テーブルの上に並んだ馳走を見て目を見張った。酒も整えられている。彼らは、酒杯を手にもつ、クリテスが皆の杯に酒を注ぐ、スダヌスが声を上げた。
 『今日、山行に加わった者たちの無事の姿がここにある。喜ばしいことです。乾杯!』
 興奮気味のガラガラ声を発して、注がれていた酒を一気に飲み干した。


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