中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

「クラッシュ」が描く、凄まじい偏見のかたち

2006年03月17日 | 映画
 本年度アカデミー作品賞受賞作「クラッシュ」(ポール・ハギス監督)を見た。

 人種、宗教、性、階級・・・およそありとあらゆる偏見のかたちを、これでもかと描く前半の凄まじさには暗澹とさせられ、だからかえって後半のささやかな希望の光に癒された気がするのだろう。でもあくまでそれは「あらまほしき姿」。偏見をなくすことほど難しいことはない。

 見終わったあと,同行の友人曰く、
 「隣席の女性はひとりで来ていて、上映前に文庫本を読みながらパンを食べていた。可哀そう...」

 これには驚き、
 「どこが可哀そうなの?仕事帰りにふと思いついて映画館へ入り、時間がないのでパンを買って腹ごしらえしつつ、読みかけの本を読む、というのは、わたしもよくやるけど、とっても幸せなひとときなのよ」

 「えっ、そうなの。わたしはひとりで映画を見たことがないから、そんなふうに考えたことなかった」

 「これだから専業主婦はいやなのよねー」

 と、わたしは思いっきり偏見の言葉を投げつけたのでした^^:

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆ツヴァイク『マリー・アントワネット』、なかなか重版分が書店に入らずご迷惑をおかけしました。今週からは大丈夫のはずです。「ベルばら」アントワネットの帯がかわゆいですよ♪
☆☆画像をクリックすると、アマゾンへ飛べます。

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
「マリー・アントワネット」(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8


 
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カルメンがホセに投げつけた花は?

2006年03月13日 | 音楽&美術
 「わたしは目をあげ、あの女を見ました(・・・)。一目見て、嫌な女と思いました」(メリメの原作から)

 ホセがカルメンに初めて会ったシーンです。「嫌な女」と思ったのは怖いから。この女性によって、今までの世界ががらりと変わると予感したからです。嫌だと感じた瞬間から、恋はもう始まっているのです。

 それが証拠にホセは、カルメンが投げつけた花をこっそり拾い、ポケットに隠す。しかも何日も肌身離さず持っていて、彼女をしのぶよすがとしました。

 オペラの舞台では、真っ赤な薔薇が使われることが多いようです。見映えがいいし、カルメンの燃えるようなイメージにもぴったり。闘牛のときの赤い布と同じで、観客自身もこの色に反応して興奮するからでしょう。

 ところが原作は違います。カルメンが口にくわえていたのは、野生のカシア。色はおそらく淡い黄色。かなりみすぼらしい花でした。その代わりこの花は、薔薇のようにすぐ萎れることはないし、「枯れてなお芳香をはなつ」強さがある。まさにカルメンにぴったりの花といえるかも。

http://www.saela.co.jp/

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