中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

カルメンがホセに投げつけた花は?

2006年03月13日 | 音楽&美術
 「わたしは目をあげ、あの女を見ました(・・・)。一目見て、嫌な女と思いました」(メリメの原作から)

 ホセがカルメンに初めて会ったシーンです。「嫌な女」と思ったのは怖いから。この女性によって、今までの世界ががらりと変わると予感したからです。嫌だと感じた瞬間から、恋はもう始まっているのです。

 それが証拠にホセは、カルメンが投げつけた花をこっそり拾い、ポケットに隠す。しかも何日も肌身離さず持っていて、彼女をしのぶよすがとしました。

 オペラの舞台では、真っ赤な薔薇が使われることが多いようです。見映えがいいし、カルメンの燃えるようなイメージにもぴったり。闘牛のときの赤い布と同じで、観客自身もこの色に反応して興奮するからでしょう。

 ところが原作は違います。カルメンが口にくわえていたのは、野生のカシア。色はおそらく淡い黄色。かなりみすぼらしい花でした。その代わりこの花は、薔薇のようにすぐ萎れることはないし、「枯れてなお芳香をはなつ」強さがある。まさにカルメンにぴったりの花といえるかも。

http://www.saela.co.jp/

コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする