中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

マリー・アントワネット対デュ・バリー、女の戦い(世界史レッスン第47回)

2007年01月23日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第47回目の今日は、「デュ・バリー夫人、チャールズ1世を買う』⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/01/post_eec4.html#more
彼女がヴァン・ダイク「狩猟場のチャールズ1世」を購入したエピソードについて書きました。

 ルイ15世最後の愛妾デュ・バリーは娼婦あがりだった。王太子妃としてオーストリアからフランスへ嫁いできたアントワネットにとって、これは信じがたいショックである。何しろ母親マリア・テレジアは、娼婦を鞭打って丸坊主にし、国外追放するという政策を取っていたほどなのだから。

 というわけで名高い「女の戦い」が切って落とされる。宮廷では高位の女性からしか声をかけられないというしきたりがあったので、アントワネットは決してデュ・バリーに話しかけなかったのだ。恥をかかされたデュ・バリーはルイ15世に訴え、ルイはオーストリア大使に圧力を加え、大使はマリア・テレジアに手紙を書き、ついに女帝は娘に「声くらいかけてやりなさい」と説得する。

 アントワネットはよくよく悔しかったとみえて、なかなか段取りどおりに声をかけられず、何度か失敗した後、ついに・・・このシーンは、ツヴァイク『マリー・アントワネット』に、こう書かれている。

 --1772年元日。ついにヒロイックでも滑稽でもある女の戦いは決着を見る。デュ・バリー夫人の勝利、マリー・アントワネットの敗北。
 再び芝居がかった舞台が用意され、今回も証人兼観客として仰々しい宮廷人たちが集められる。新年大祝賀会の始まりだ。序列にしたがって、次々宮廷女性たちが王太子妃のそばへ歩んでくる。その中に大臣の妻エギヨン公爵夫人と並んでデュ・バリー夫人がいる。アントワネットはエギヨン公爵夫人に短い言葉をかけてから、頭を微妙にデュ・バリー夫人の方へ向け、はっきり彼女と面と向かってとは言えないまでも、好意的に見ればそう見えなくもないといった感じで--全員、ひとことも聞き漏らすまいと息をつめたーー待望の、そして激しい葛藤の末の、前代未聞の、運命的な言葉を発する。こう言ったのだ、「今日はヴェルサイユもたいへんな賑わいですこと」--

 ばかばかしいような話だが、こうした一見つまらないことが周囲の権力者たちに貸し借りを作ることになるのはよくあること。この事件も、めぐりめぐってポーランド分割へつながっていったというツヴァイクの説には、なるほどと感心させられた。

☆☆☆ありがとうございます。もう重版になりました♪♪
マリー・アントワネット 上 (1) <br>
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☆新著「怖い絵」(朝日出版社)<br>
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪<br>
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怖い絵
怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」



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9 コメント

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フランス人の好色性 (haruurara)
2007-01-23 20:19:21

 映画でも、その場面はありました。大体、娼婦出身で、国王の愛人になれるというのは、フランスがカトリックだからでしょう。(性への束縛が少なくおおらか。
後の、ピユリタン国家の、滑稽なまでの、性抑圧は、異常です)カトリック国家では、現代でも、閣僚などが、愛人を持っても、「よくやった!」くらいの反応で、クリントン大統領の愛人騒ぎは、性解放されたはずのアメリカで、相変わらず、ピユリタン意識が残っていることを暴露しました。愛人いても、辣腕な政治家が、愛人もいない無能な政治家より優れているのは、自明です。古代の、おおらかな性意識でいいと思います。(笑い)
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Unknown (haruuraraさんへ(kyoko))
2007-01-23 20:43:51
映画、ごらんになったんですね。わたしもいよいよ明日見に行く予定です。評価が二分しているので、ちょっと心配。あまり期待しない方が無難でしょうか。
 
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早く (ゆうひ)
2007-01-23 21:25:25
あの事件が、ポーランド分割につながるなんて。
はやく、読みたいです。
ところで、1月17日発売とのことなのですが、
アマゾンでは「近日発売」になってるんですよね。
発売がおくれていたりするのでしょうか?

映画。期待しないで見たら、思っていたよりは
よかったです。まぁ、微妙っていえば、微妙でした
けど。。
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Unknown (Cathy)
2007-01-23 21:51:32
子供のときに『ベルサイユのばら』を読んで
いたときに、アントワネットとデュバリー夫人の
対立を激しく描いていた絵、そしてデュバリー夫人に
声をかけたあとのアントワネットが「王太子妃が
娼婦に負けたのです」とオスカルに
泣きつく顔が今でも忘れられません・・
今回、Kyokoさんの訳書を読ませていただいて
この出来事がポーランド分割につながったこと、
そして完全に悪人だと思ったデュバリー夫人も
強欲だけど、根が悪い人間ではないと知りました。
(でも、どうなんでしょうね?)
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Unknown (ゆうひさん&Cathyさんへ(kyoko))
2007-01-23 21:58:34
ゆうひさん
 読んでくださるんですか、嬉しいな♪
 すでにアマゾンでも発売中です。わたしのこのブログの本の表紙のところをクリックしたら、アマゾンへつながるようにしてあります(書いた方がよいですね)

Cathyさん
 他の本を読んでもデュ・バリー夫人はそれほど性格は悪くなかったみたい。とはいえ末端から王の愛妾へのし上がるのだから、人が良いだけではないでしょうね。夫殺しの嫌疑もあるし・・・あ、それじゃあ、とうてい性格いいとは言えませんね。こわ~い。
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Unknown (パセリ)
2007-01-27 08:31:32
 重版、おめでとうございます~♪
 
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Unknown (パセリさんへ(kyoko))
2007-01-27 10:04:54
ありがとうございま~す!まだ10日とたたずの増刷です♪
何しろ他社の旧訳3つ、映画の原作、日本人が書いたもの数種と、大混戦状態なので、売れるかどうかとっても気をもんでいました。読者の方々に受け入れられてとっても嬉しい!
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はじめまして (たまおや)
2007-01-30 10:36:15
たまおやと申します。キャシー・トラスクさんの所から来ました。
実は今もう10年ぶりぐらいで、『ベルばら』を読み返しているところです。
小さかったころはただただオスカルや、アントワネットの美しさやドレスに魅了されていましたが、この年になると女性でありながら軍人であること、政略結婚という人格無視の制度などが如何に悲しく当人達を苦しめたのかがよく分かって、ページをめくるたびに涙してしまいます。
ツヴァイクのアントワネットの伝記も、ちょうどもう一度読んでみようと思っていたところですので、ぜひkyokoさんの訳のものを購入しようと思います。

また遊びに来てもよろしいでしょうか??
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Unknown (たまおやさんへ(kyoko))
2007-01-30 10:42:22
ご訪問ありがとうございます♪
ツヴァイクを読むと、またいっそう「ベルばら」が楽しめること請け合いです。是非お読みください!そして感想を聞かせてくださいね。楽しみにしています♪
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