経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ジャイロボール

2007-03-14 | その他
 本日は「経営の視点から・・・」という本ブログのタイトルとは程遠い内容ですが、、、

 松坂大輔の「ジャイロボール」が随分アメリカで騒ぎになっているようです。当の本人は、「スライダーのことですかね」とかいってはぐらかし、どちらとも明言しないという話ですが、打者に「ジャイロがある」と思わせるだけで心理的に有利になるという戦術だといった解説もされています。
 こういった解説を読んで、なるほど、松坂投手のように「実力があって警戒されている」というのが大前提になりますが、確かにこういった受け答えをすることによって、さらに打者との関係を有利な方向に持っていくことができるわけです。
 これは、事業という戦いで「特許」という武器を持った場合も同じなのではないか、などとくだらないことを考えてしまいました。

アナログ系知財

2007-03-12 | 知財発想法
 「老舗の強み」の記事で、素材系・練り物系の特許だけではない強みについて言及しました。その中で、「練り物」ではない加工組立型なのに日本の自動車産業がどうして強いのか、ということを疑問点として挙げましたが、要は「練り物」かどうかというよりも、「アナログ系」かどうかというところがポイントであるように思います。
 日本の電機メーカーも、今のように厳しい状況になったのはデジタル化が進んでからで、それ以前は、特にアナログ技術がものをいう通信・映像・音響などの分野では模倣を許さない強さを発揮していたと思います。物理的にまねできないということは知的財産権云々以前の問題ですから、今のように知財戦略で何とかしろ、という話にはなりにくかったのでしょう。ところが、デジタル化が進むと物理的には模倣が可能な状態になってしまいますから、これは「知的財産権」の力で何とかするしかない。こうした背景も、「知財」への期待が高まる理由の一つなのでしょう。
 自動車関連の技術は詳しくはわかりませんが、デジタル化が進んでいるとはいっても、乗り心地や環境技術などはアナログ的な領域であるように思います。デジタル技術の分野では、「知的財産権」で戦っていくのが一つの道ではありますが、アナログ的な要素を加えて差別化する(具体的なアイデアがあるわけではないのですが)、などといった方法論もあるのかもしれません。

知財経営&知財コンサルティング/その2

2007-03-10 | 知財発想法
 以前記事に書いた「知財経営&知財コンサルティング」のパート2です。

 昨日、地域中小企業知的財産戦略支援事業の統括委員会の最終回に出席しました。3年間の総まとめということで委員それぞれが感想を述べることになり、自分なりに思うところを整理してみたのですが、私が現段階で考える「知財コンサルティング」のフレームワークは、次のような感じです。

① 対象となる企業にとって、知的財産権によって技術等の優位性が保護され、高い収益を上げる理想モデルを描いてみる。
② そこに、これまでの実情を当てはめてみて差異点を見出し、その差異が生じてしまうボトルネックとなる部分を特定する。
③ そのボトルネックを解消するための具体的な方法を考え、実践してみる。

 ①を描くだけでは、実際に何かが変わるわけではない。いきなり③から始めて、パテントマップの作成だ、発明者への特許教育だをやってみても、①の絵が描けていないと、なかなかモチベーションが高まらない。よって①~③の順に進めるのは当然といえば当然のプロセスなのですが、②のプロセスが意外に行われていないように思います。①には全体を見て分析するスキル、③には特許等の実務スキルが求められますが、②の工程は両面の知識が必要になるので難しいところなのかもしれません。
 そして、③を導入した結果、①の理想像のようになるかというと、事業も経営も生き物ですから、必ずしもはじめに描いた絵のようになるとは限らないのが実際のところではないかと思います。しかしながら、②で発見した「弱くなりがちな部分」に③の手当てを行ったということが、どのような方向に進むにせよ、よい癖がつき、体質が強化されたとして効いてくるのではないでしょうか。①で描く絵は、②~③のモチベーションを高める道標みたいなものであって、最終的な成果というものは、②の部分に③で補強がされていくことにあるのではないか、というふうに思っています。

紙と鉄

2007-03-08 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融に、製紙業界が苦戦しているという記事が掲載されています。製紙業も鉄鋼、化学等と同じ素材産業の「練り物」系に属すると思いますが、絶好調の鉄鋼等と一体どこに違いがあるのでしょうか。

 日本の鉄鋼メーカーの場合、業界再編で集約が進んだということもありますが、やはり好調の最大の要因は、中国をはじめとする需要の急増と、高級鋼の分野での圧倒的な技術力にあるものと思われます。
 では、日本の製紙メーカーはどうなのか。以前に新聞社の方に聞いた話によると、高速・大量の印刷に耐え得る高品質の紙を作れるのは日本の製紙メーカーくらいしかないそうで、技術的には明らかに違うそうです。紙も練り物系なので、おそらくこの種の技術のキャッチアップは容易ではないでしょう。そうすると、問題はもう一方の需給面にありそうです。中国やインドで建築用鋼材等の需要は急増している一方で、紙の需要に大きな増加傾向は見られないということなのでしょうか。かつて中国を旅行したときの記憶では、駅やなんかで新聞を読んでいる人を殆ど見かけなかったのですが(10年近く行っていないので今はわかりませんが)、誰もが新聞や雑誌を読むような状況になる頃は、日本の製紙メーカーが大ブレイクということになっているのかもしれません。

中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006

2007-03-07 | 知財一般
 統括委員会の一員として参加させていただいた地域中小企業知的財産戦略支援事業において作成した「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006」が公開されました。
 このマニュアルは、2004、2005に続く第3版ですが、前2版と比べると総論編である知財戦略・知財コンサルティングについての解説部分が充実したものになっているのが特徴だと思います。また、過去3年間の支援事例も掲載されているので、これ1冊で3年間の支援事業の成果が一覧できるものとなっており、「マニュアル」といったタイトルとは少々趣の異なる濃い内容となっています。
 「知財コンサルティング」については、以前の記事にもとりあげたとおり、きれいな絵を描けるかどうかよりも、どうやって実現するかという手法が一番難しい部分です。このマニュアルの中では、具体的な方法(結局は調査や教育といったオーソドックスな手法の積み重ねですが)についても様々なケースが取り上げられており、よくある「戦略もの」の本より、かなり現実性のあるものになっているのではないでしょうか。一方で、課題として残ってしまっているのが、コスト面の問題です。個々の支援事例は「あるべき」メニューでのコンサルティングが行われましたが、中小・ベンチャー企業にフルメニューをそのまま適用するのは予算的にも時間的にも難しいのが現実でしょう。
 このマニュアルは特許庁のホームページからダウンロードできますので、興味のある方は是非ご一読ください。

レシピを捨てる

2007-03-03 | プロフェッショナル
 昨晩遅くに何気なくテレビをつけたら、「アイデアの鍵貸します」という番組にモンサンクレールの辻口博啓氏が登場していました。弁理士の仕事も職人芸的な部分があるので、辻口氏、イチローなどがテレビに出てくると、何か参考になる話が聞けるのではないかとついつい見入ってしまいます。
 番組で紹介された辻口氏のアイデアの鍵は、次の3つでした。

① 他の分野の道具を使う。
② 自分のルーツに目を向ける。
③ レシピを捨てる。

 ①については、ペンキ塗りのロールを使ってみるなど、他の分野の道具を使ってみることによって、新しい可能性が広がるとのことでした。
 特許の世界でも、例えばソフトウエア開発で用いられている手法を適用したり、経営コンサルティングのツールを用いたり(「知的財産のしくみ」p.156~157etc.)することで、新しい可能性を広げられるかもしれません。

 ②については、フランスでは自国の文化を大切にしている、辻口氏は故郷の石川県七尾の素材に目を向けることによって、自分ならではのもの、オリジナリティを生み出すことができる、とのことでした。
 競争環境が厳しくなる特許の世界において専門職として戦っていくためには、必要とされる基本動作を見につけた上で、いかに得意分野でのオリジナリティを出していくかが求められることになるかと思います。その場合のオリジナリティとは、何ら脈絡のないところから生み出されるものではなく、自分のルーツ=職業人としてのキャリアに目を向け、そこから強みを見出していくことが必要なのではないでしょうか。

 ③については、自分が創作したレシピを隠さずに公開し、過去の実績に拘る道を封印することによって、新たな創作に対するプレッシャーをかける、それによって新しいアイデアが生まれてくるとのことでした。
 企業レベルで考えると「営業秘密の管理」は競争力を守るための有力な手段ですが、個人レベルになってくると「進化を続けること」が最も強力な競争力を維持する手段になると思います(企業も「進化を続けること」が競争力強化の本質であり、「知的財産の保護」はそれをサポートする補助手段と捉えるべきでしょう)。我々のような世界でも、アイデアやノウハウはどんどん発信して、自分にプレッシャーをかけていったほうがよいということがいえるのではないでしょうか。

 違う分野であっても、「超一流」の発言は大いに参考になります。

老舗の強み

2007-03-02 | 新聞・雑誌記事を読む
 今週は株価が激下げで大変でしたが、本日の日経金融には
「弱気の向こうに薄明かり/老舗復権、織り込み不足」
という記事が掲載されています。要すれば、「老舗」である鉄鋼や化学などの素材産業は、自動車や電機などの加工産業に比べて、ここ3期ほど利益率、ROEなどの経営指標が上回っているが、PER(株価収益率)からみた株価は依然として割安である。これらの老舗の株価はこの下落局面でも比較的底堅いところを見ると、今後の相場の立ち直りはこれらのセクターの見直しが中心になるのではないか、といった内容です。

 ここでいう「老舗」セクターのことを、本ブログでは以前に「練り物」と表現し、特許やノウハウだけではない知財の強みについても考えてみました。近年の素材セクターの強さは、BRICsの台頭による需要の増加がその要因として説明されていますが、知財面から考えてみると、需給がタイトになればなるほど、模倣されにくい技術を持つ企業の強さは際立ってくるといえるでしょう。
 一方で疑問になってくるのが、「練り物」ではない加工組立型に属している日本の自動車産業の強さです。「トヨタ式ならこう解決する!」などの本を読む限りでは、「文化」や「習慣」(これも権利云々の問題ではなく簡単には模倣できないものでしょうが)が大きな要素であるように見えますが、なぜその強みが長年に渡って維持されているのか、こちらも興味深いところです。

発明表彰・報奨金は出願促進に効果的か?

2007-03-01 | 知財発想法
 以下の話は、ソフトウエア・ビジネスモデルなどあくまで特定の分野での話、ということでご理解ください。
 
 ソフトウエアやビジネスモデル関連の分野では、発明者が「忙しい」といって特許出願になかなか積極的になってくれない、という課題を耳にすることが少なくありません。そこで、出願促進となれば、表彰制度、報奨金、という方向に話が行くことになるのではないかと思いますが、果たしてこれらの分野でオーソドックスな特許の世界での手法がそのまま効果を生むのでしょうか?
 これらの分野で発明者となる方の多くは、研究者としての成果(優れた発明)を求められるのではなく、ビジネスの前線での成果(売上・利益)を求められていることが多いと思います。人事評価というものは、本業の成果で評価されるのが第一でしょうから、「発明で表彰された」といってもピンとこない(悪くすると「この忙しいのに」と周囲から逆に睨まれてしまいかねない)ことが多いのではないでしょうか。
 そう考えると、これらの分野では現場の状況を把握した上で、「本業にプラスになる、本業をバックアップするから、特許出願にも取り組んでいこう」というシナリオを示していくことが、実効性をあげるためには必要なのではないかと思います。