経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

費用対効果とは何ぞや

2006-08-23 | 新聞・雑誌記事を読む
「知的財産権活用はコスト高? 取得簡素化に期待の声」

 パテントサロンで見つけた、東京新聞の記事です。中小企業と知財に関する問題というと、こうした根本的な誤解に基づく議論が繰返されていることは、何とも歯がゆいところです。
 知的財産権を取得する上でのネックとして、「取得しても売り上げに結びつかない」、「取得費用が高い」という意見が多いらしく、要すれば費用対効果の面で割に合わないのが問題だ、ということのようです。

 こうした意見が出やすい背景には、2つの議論の捻れがあるように思います。

 1つは、「費用対効果が悪いからどうするか」というテーマは基本的には経営判断に関する問題であって、それをもって補助金を出すべきだとか、制度を変えるべきだとかいう議論は本筋ではないのではないかということです。費用対効果が悪いのであれば、そのような投資を抑制するか、或いは投資をしなければならないのであれば費用対効果を上げるような投資の方法を第一に議論すべきではないでしょうか。知的財産権に対する投資は、純粋にその企業の収益に資するから行うべきものであって、補助金をつけてでも国策として推進する環境対策のような分野とは根本的に性格が異なります。中小企業振興という政策目的もあるので、補助を全く否定するものではありませんが、費用対効果を上げるような知財戦略に取り組むことこそが真に企業の足腰を鍛えることになるのではないでしょうか。

 もう1つは、ここでいう費用対効果を、はたしてどの費用に対してどの効果をもって測っているのだろうか、という問題です。「特許権を取得した→チン・ジャラで売上がいくら」なんておいしい話は、知財先進企業でも滅多にある話ではありません。費用対効果は、特許権を取得した事業全体をもって特許権を取得しなかった場合に比べて、トータルでどれだけの収益を押し上げる効果があったかによって測るべきです。例えば、1億円の研究開発投資を行って新規事業を立上げ、その成果を守るために500万円の特許取得費用をかけたとして、その事業の売上が年1億円になったとします。仮に特許を取得しなかった場合の粗利が20%だったところが、特許により競争激化が抑制できて粗利が25%になった。この場合、5%分=500万円分の投資を回収したことになるので、割引率を考慮しなければ翌年以降の粗利の底上分はまるまる投資の効果ということになります。現実的には、特許がなかった場合との粗利の差を計算することは極めて困難なので、投資利回りを正確に算出することは難しく、多分に感覚的な判断にならざるを得ないのですが、ここで言いたいことは、特許取得の効果というものは特許と紐付いた売上として見えやすい形で現れるものではないので、特許がなかった場合との事業全体の収益の差から捉えるべきである、ということです。