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ケイの読書日記

個人が書く書評

南部さおり 「代理ミュンヒハウゼン症候群」 アスキー新書

2017-05-07 13:22:08 | その他
 日本で『代理ミュンヒハウゼン症候群』が広く知られるようになったのは、2008年に発覚した『点滴汚染水混入事件』からだと思う。
 母親が、大学病院に入院している自分の娘の点滴に、飲み残しのスポーツドリンク(室温で10日間放置してある!!!)を入れて、娘の血液中に真菌・異物を混入させ、傷害罪で起訴された。(殺人未遂じゃないんだ!)
 この娘さんは五女で、上の二女、三女、四女は同じような症状で死亡している。
 あまりにもショッキングな事件だったので、覚えている人も多いんじゃないだろうか?


 愛する我が子を、わざわざ重病にして死の危険にさらすなんて、信じられない!!!と驚く人が多いだろうが、この親の心理をぼんやりと理解する人もいるんじゃないか?
 我が子は可愛い。でもそれ以上に自分が可愛い。周囲から「病気がちな子どもを、献身的に看病する、素晴らしい母親」という称賛を得たくて、我が子には是非とも重病になってもらわなければ。その病気が珍しい希少な病気だと、自分のステイタスも上がる。高名なお医者さんと知り合いになれれば、さも親密なように周囲に吹聴できる。そういう心理って、誰でも少しくらいあるでしょう?

 
 そういう心理がありながらも、こういう事件が多くないのは、実行するには高いハードルがあるから。
 乳幼児が入院すると、本当に困る。大人だったら、面会時間にたまに面会に来て、あとは完全看護の病院に任せればいいけど、乳幼児の場合、極力付き添ってほしいと病院から言われるだろう。(ICUじゃない場合)
 でも、子どもがその子一人ならともかく、複数いたら、その面倒は誰がみる? 育児だけじゃない、その他の家事は誰がするの?
 上記の『点滴汚染水混入事件』の母親は、ダンナの両親と同居していて、その点は心配なかった。
 この母親も、最初から、こうしようと思ってたわけじゃない。たまたま次女が本当に病気になって入院した時に「子どもの看病に尽くす母親」とみられた事に心地よさを感じ、繰り返すようになった。


 それにしても次女が死亡したとき、これはやりすぎだと、激しく後悔しなかったのかなぁ。子どもは自分の一部だからいいんだ、という感覚だったかも。

 次女が亡くなったのは3歳9か月。悪意に満ちた見方だが、もう、点滴に異物を混入して病気に仕立てるのは難しい年齢かもしれない。おしゃべりできるようになった次女が、看護師さんに、母親が点滴に何か入れているとカタコトで喋るかもしれない。
 三女は2歳2か月、四女は8か月で死亡している。
 
 五女は1歳10か月の時に発熱で入院し、K大病院へ転院。そこて母親は捕まった。K大病院の担当医が、最初から「代理ミュンヒハウゼン症候群」を強く疑っていたからである。ICUで、それまで容態の安定していた五女が、母親と面談した直後に高熱を出し、容態が悪化するパターンを繰り返していた。
 しかし…母親と面談するたびに容態が悪化する幼い女の子って…もの悲しいです。

 結局、この母親には懲役10年の判決が下りて、服役しているようだが、問題は出所後にある。どんなに隠しても隠しきれるものじゃない。被害を受けた五女もすべてを知るだろう。母親が出所する頃には、難しい年齢になってるよ。
コメント
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