ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子「ワーカーズ・ダイジェスト」

2014-11-04 16:21:04 | 津村記久子
 「会社員、必読!!」と帯に書いてあるけど、本当に激しく同意する。池井戸潤や真山仁のような企業小説では全然ない。かといって、生活の大部分を恋愛にさいているようなOL小説でもない。
 本当にフツーの会社員の日常が書かれている。最初から出世コースを外れている男の人や、中途採用で中小企業に入った一般事務の女の人。間違っても総合職ではない。彼ら、彼女らの疲労が日々蓄積されていく日常。
 仕事であっぷあっぷしてしまって、恋愛も隅に押しやられ、へとへとになっている。

 何が、彼ら彼女らを疲れさせるかというと、イヤな上司や気の合わない同僚よりも、クレーマーなんだよね。よく分かります!!

 特に、女性主人公・奈加子は、フリースクールの運営者から仕事の依頼を受けるが、毎回ダメ出しされてうんざりしている。もちろん、レベルの高い仕事をしようとダメ出しするのはいいが、その相手の場合、奈加子と接触したくて、何度もクレームを付けるのだ。
 不登校児向けのフリースクールの運営者だから善人だろうと、最初は好意を持っていた奈加子も、さすがにそのしつこさにゲッソリするようになる。これって、一種のセクハラというかパワハラだよね。受注企業の担当者は、顧客に対して、何があってもニコニコすべきだ!という無言の圧力。


 私も、これに近い事があった。別に好意を持たれた訳ではない。純粋なクレームだが、そのクレームを相手が楽しんでいる事はよくわかった。1度のクレームに1時間以上電話をかけてきて、「アンタ、そんなにヒマなんですか?」と言ってやりたかったが、もちろん言えない。何日もそういう事が続いて、最後に私も腹をくくって、「あなたの要求はお断りします。この電話は録音してあります」と宣言。
 それ以降、クレームの電話は、ピタッとやんだ。本当に録音してあったし、裁判になっても、良いと思っていた。出るとこ出て、白黒つけた方がサッパリする。

 クレーマーの事、思い出して、私もイヤな気分になったが、この小説は暗い話ではない。どちらかというと、優しく思いやりのある、生姜湯のような小説。じんわり温まり、「まー、明日から頑張ろう」と思わせてくれる、優れものです。
コメント
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