玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

Ann Radcliffe The Mysteries of Udolpho(10)

2016年03月17日 | ゴシック論

 とにかくスピードを上げないと、いつまでたっても、日本語の本が読めない。夜になると辞書を脇に置いてThe Mysteries of Udolphoを読み出してから、もうひと月半が経っている。英語の文章の読解が面白くて日本語の本を読む気がしないのだ。
 ということで一気に24章まで進んで、第1巻を読み終わることが出来た。20章から24章まではこの小説の大きな山場であり、話の展開にもスピード感があり、読む速度も自ずと上がってくるのである。
 モントーニは妻に対して妻の領地を譲渡する書類にサインするよう執拗に迫る。破産しているモントーニはそこまで追いつめられているわけで、エミリーの叔母と結婚した目的もそこにあったのである。
 再三にわたる脅迫にも拘わらず、夫人はそれを頑強に拒み続ける。ついにモントーニは「サインしなければ城の小塔に閉じ込める」とまで言って彼女を脅す。叔母の苦しみを知ったエミリーは「身の安全のためにモントーニの言うとおりにした方がいい」と忠告するが、叔母は頑として聞かない。
 なぜか? 叔母は自分の死後、その領地がエミリーに相続されることを強く望んでいるからである。あれほど自分勝手で、軽薄で、派手好きだった叔母は、ここで悔悛の情を見せているのである。エミリーの善意にほだされて……。彼女の「お前は私が期待していなかった美徳を見せてくれた」You show a virtue I did not expect.という科白はなかなか泣かせるものがある。
 このあたりも極めてメロドラマ的な展開であるが、それはゴシック小説につきものなのであって、ラドクリフだけに特徴的なものではない。しかし、ラドクリフはそれを極端にまで押し進めたとは言えるだろう。
 さらに、"活劇"も待っている。ある日、城に大勢のよそ者達strangersがやってくる。彼らは全員馬に乗り武装している。モントーニは何か良からぬことを企んでいるらしい。召使い達はモントーニが「盗賊の親玉になるつもりだ」とまで言っている。
 彼らとの宴席でモントーニがワインで乾杯しようとした時、グラスが粉々に割れてしまう。なんとそのグラスはヴェネチアングラスで出来ていて、毒を入れると割れるように作られていたというのだ。誰かがモントーニを毒殺しようとしたのである。
 しかし、毒を注ぐと割れてしまうグラスなどというものがあるとはとうてい思えない。このあたり、あまりにも不自然なご都合主義と言わざるを得ない。
 モントーニはワイン係の召し使いが夫人の指図でやったと白状したとの証拠を突きつけて、夫人を捕らえさせどこかへ運び去る。多分城の小塔に閉じ込められたのである。
 エミリーは夜になってから、叔母の居所を突き止め、救い出すために城の内部を探索する。恐怖と不安に打ち勝って、あれほど自分を虐げ、ヴァランクールとの結婚まで妨げた叔母のために、そこまでしなければならないのだろうか。
 しかし、彼女は彼女の美徳によってそうしなければ、ストーリーは前に進まないのである。メロドラマの宿命である。エミリーは小塔に上る階段に血痕を発見し、叔母がそこで殺されてしまったのだと思い込むだろう。
 叔母を発見できずに自室に戻ったエミリーは、あの"妙なる音楽"を耳にする。あの日父と共に真夜中に聴いた、どこから聞こえてくるのかも分からないあの音楽を。
 だれか長い間この城に幽閉されている人物がいるに違いない。ということで再び謎が繰り返され、その音楽を奏でる囚人が誰なのかが、近々解明されるだろうという期待を抱かせて第1部は幕を閉じる。

 

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