11日付朝日新聞朝刊の政治面には、次のような記事が載っていた。
派閥政治との訣別はともかく、首相経験者を公認・推薦しないというのはどういう理屈によるものなのだろうか。
そのあたりが気になって、この改革案の実物を見てみようと、自民党のホームページで検索してみたが見当たらない。
塩崎恭久のホームページを見ると、10日付で「自民党改革委員会 中間とりまとめ」という記事が掲載されており、当日配布された「党改革委員会 中間とりまとめ案(PDF)」へのリンクも張られている。
しかし、塩崎は記事でこう述べている(太字は引用者による。以下同じ)。
「派閥を今後党運営に一切関与させない」旨の提言が「了承され」たのなら、「「派閥と決別」削除」と朝日が報じるのはおかしいのではないか。
中間とりまとめ案のPDFには次のようにある。
確かに、朝日が挙げる「検討されたが削除された「派閥」に関する提言や表現」のうち、
・「親分・子分による多数派政治」「派閥人事」「異常なカネ集め」などの批判を招いた
・党から派閥への政治資金支援を止める
・派閥グループ間の連絡・協議は行わない
・派閥グループの長として定期的なマスコミ対応は行わない
といったものは見当たらないので、削除されたのであろう。
しかし、「派閥政治との決別」の語句は残っているし、内容的にも、派閥は党運営にも候補者の選定にも党の人事にも関与しないことを「確認する」としている。
塩崎はこのPDFに記された案が当日修正されたとは述べていないので、おそらくそのまま了承されたのだろう。
だとすると、私が冒頭で引用した朝日の小野甲太郎記者の記事は、誤報ではないだろうか。
Googleニュースで検索してみると、時事通信は朝日と同様、「派閥からの決別」は盛り込まれなかったとしており、産経も、明記はしていないもののそのように受け取れる記事となっている。毎日は正確に報道していた。
以下、時事、産経、毎日の順。
おそらくこうした記事は、記者が中間とりまとめ案に目を通した上で書くのではなく、何らかの発表あるいは取材に基づいて書くのだろう。
だから、毎日以外の4メディアは、ニュースソースに問題があったのだろう。
この改革案の全てに私は賛成するものではないが、こうした方向で党改革を進めない限り、自民党に明日はないだろう。
まあ私は、もはや自民党という枠組みにこだわる必要はないと考えているが。
冒頭の朝日記事に戻るが、「派閥政治は自民党に存在しない」、だから文言を削除せよという石原伸晃幹事長の言い分は不思議な話で、現在の自民党に派閥政治が存在しようがしまいが、自民党と言えば派閥政治というのが旧来からのイメージであり、それから訣別すると明記することは自民党にとって得にこそなれ決して損な話ではないはずだが。
それを削除せよとは、そう明記されると困る者が党内にいるということであり、つまりは、派閥政治が存在することを自ら認めているに等しい。
首相経験者の件にしてもそうだが、幹事長と言えば党のナンバー2のはずなのに、彼が決して実質的にはそうではないことをよく示しているエピソードだと言えよう。
「派閥と決別」削除
自民改革案 重鎮・執行部が圧力
自民党改革委員会(塩崎恭久委員長)が派閥支配をなくそうと検討してきた改革案に対し、党の重鎮や執行部が圧力をかけて骨抜きにした。10日発表の中間報告で、首相経験者の公認禁止や派閥政治との決別といった項目が削除された。派閥の影響力の大きさがかえって証明され、塩崎氏が辞任する騒ぎになった。
塩崎氏は10日の同委で「どれだけ改革のメニューを盛り込んでもつぶされる」と党執行部への不満を述べ、委員長を辞任した。
同委は5月26日に発表した素案で「首相経験者を次の総選挙で公認・推薦しない」「派閥政治と決別する」と記し、目玉に据えた。しかし、「無所属でも勝つ。お好きなように」(首相経験者)と反発が相次いだ。
さらに石原伸晃幹事長が9日、塩崎氏や同委の若手議員に約1時間にわたって抗議。党関係者によると、この場で石原氏は首相経験者の公認禁止について「万死に値する」と否定。「派閥政治は自民党に存在しない。ないものをカゲロウみたいに迫いかけるな」と迫り、「派閥政治と決別する」の一文を削除させた。話し合いの途中、石原氏が首相経験者から電話を受けて「抑えますから」などと話す場面もあったという。
若手議員は「長老に弱く、身内に甘く、自己改革できない党の体質を如実に表した」と憤っている。(小野甲太郎)
検討されたが削除された「派閥」に関する提言や表現
・「親分・子分による多数派政治」「派閥人事」「異常なカネ集め」などの批判を招いた
・党から派閥への政治資金支援を止める
・派閥グループ間の連絡・協議は行わない
・派閥グループの長として定期的なマスコミ対応は行わない
・いわゆる派閥政治と決別する
派閥政治との訣別はともかく、首相経験者を公認・推薦しないというのはどういう理屈によるものなのだろうか。
そのあたりが気になって、この改革案の実物を見てみようと、自民党のホームページで検索してみたが見当たらない。
塩崎恭久のホームページを見ると、10日付で「自民党改革委員会 中間とりまとめ」という記事が掲載されており、当日配布された「党改革委員会 中間とりまとめ案(PDF)」へのリンクも張られている。
しかし、塩崎は記事でこう述べている(太字は引用者による。以下同じ)。
6月10日(金)に、自民党の党改革委員会が開催され、党改革中間提言が了承されました。
党改革委員会では、(1)「『自民党政治』総括」部会、(2)「政策力強化」部会、(3)「国会力強化」部会、(4)「戦略的広報」部会、(5)「選挙力強化」部会の5部会を設け、改革の具体的方策について議論を重ねてきました。
(1)「『自民党政治』総括」部会では、自民党政治の代名詞とされてきた派閥を今後党運営に一切関与させないことや、国家ビジョンを実現できる政党への脱皮のあり方を提言する。
〔中略〕
当日の党改革委員会の最後には、私からの挨拶の中で、委員長辞任の意を述べました。派閥の問題や自民党のイメージ刷新など聖域なき改革へ向けた活発な議論をとりあげてきた党改革委員会ですが、昨日来、党幹部の一部による中堅・若手の方々を前に露骨に圧力をかけるようなやり方への抗議と、改革をより前進させてもらいたいとの意を込めて、役職を辞しました。
今後は一議員として、国政はもちろん党改革にも汗をかいていきたいと思います。〔後略〕
「派閥を今後党運営に一切関与させない」旨の提言が「了承され」たのなら、「「派閥と決別」削除」と朝日が報じるのはおかしいのではないか。
中間とりまとめ案のPDFには次のようにある。
(議論の経過)
〔中略〕
(1) 「『自民党政治』総括」部会では、自民党政治の代名詞とされてきた派閥政治との決別や、国家ビジョンを実現できる政党への脱皮のあり方を提言する。
〔中略〕
「自民党政治」総括部会提言(案)
自民党は派閥をはじめ、過去の「自民党政治」に対する国民の厳しい批判を真摯に受けとめる。明確な司令塔の下に、確たる国家ビジョンを戦略的に実現する政党に脱皮する。総裁選推薦要件は大幅に緩和し、若い世代など、より幅広い層にチャンスを与える。これまで以上に幅広い国民の付託に応えられる国民政党として再生する。
当部会では、過去の自民党政治を総括するにあたり、「自民党と官僚の関係」、 「自民党のあり方」、「自民党は真の国民政党たりえたか」をメインテーマに議論し、その中から国民が抱く「自民党政治」の象徴的な事項として、以下の項目に絞って提言する。
1.党内政策集団(派閥)(以下「派閥」という)について
結党以来果たしてきた「派閥」の機能は、もはや大幅に低下し変質している。自民党は今日までの改革の流れをより確かなものとするため、以下の事項を確認する。
(1) 「派閥」は、
・党運営に関与しない。
・総裁選挙、国政選挙の立候補者の選定には関与しない。
・党の人事に関与しない。
(2) 従来の「派閥」が担ってきた機能のうち、必要なものは以下のような対策を党本部が講ずる。
・人材の発掘・育成及び各種支援
〔中略〕
・国会や党における活動について、人事評価システムを採用する。
(3) なお、政策研究・提言、情報交換など、政治家として必要な活動を政策グループが行うことについては関与しない。
確かに、朝日が挙げる「検討されたが削除された「派閥」に関する提言や表現」のうち、
・「親分・子分による多数派政治」「派閥人事」「異常なカネ集め」などの批判を招いた
・党から派閥への政治資金支援を止める
・派閥グループ間の連絡・協議は行わない
・派閥グループの長として定期的なマスコミ対応は行わない
といったものは見当たらないので、削除されたのであろう。
しかし、「派閥政治との決別」の語句は残っているし、内容的にも、派閥は党運営にも候補者の選定にも党の人事にも関与しないことを「確認する」としている。
塩崎はこのPDFに記された案が当日修正されたとは述べていないので、おそらくそのまま了承されたのだろう。
だとすると、私が冒頭で引用した朝日の小野甲太郎記者の記事は、誤報ではないだろうか。
Googleニュースで検索してみると、時事通信は朝日と同様、「派閥からの決別」は盛り込まれなかったとしており、産経も、明記はしていないもののそのように受け取れる記事となっている。毎日は正確に報道していた。
以下、時事、産経、毎日の順。
党改革委員長の塩崎氏が辞表=「提言たなざらし」-自民
自民党の塩崎恭久党改革委員長は10日の同委員会で、同日まとめた党改革に関する中間提言が「つぶされるか、たなざらしにされるかで、何ら実行されないと懸念している」として、委員長職の辞任を表明した。この後、谷垣禎一総裁に辞表を提出した。
中間提言では、素案の段階で検討課題としていた「首相経験者を次期衆院選で公認・推薦しない」との記述が削除された。同日の委員会では、これに関し「(ベテランから)『何を考えている』と言われて曲げる自民党に再生はない」(平将明衆院議員)との声が上がった。
塩崎氏は同委員会で、中間提言のとりまとめに先立ち党幹部と協議した際に「党のイメージを変えようという熱意を全く感じなかった」と説明。関係者によると、この幹部は石原伸晃幹事長で、石原氏は塩崎氏に対し、案文にあった「派閥からの決別」との文言を削るよう強く要求。結局、中間提言にこの文言は盛り込まれなかった。(2011/06/10-19:10)
自民党改革委「首相経験者非公認」を削除 塩崎委員長が辞表「改革は何ら実行されない」
2011.6.10 18:18
自民党の党改革委員会は10日の会合で、党改革の中間提言をとりまとめたが、たたき台で「検討課題」とされた首相経験者の次期衆院選非公認については、議論が深まっていないことなどを理由に削除した。中堅・若手議員が解消を強く求めていた派閥も、党運営や総裁選、国政選挙の立候補者選定、党人事に「関与しない」との表記にとどめた。
塩崎恭久委員長は、派閥政治との「決別」という文言を明記する方針だったのを、石原伸晃幹事長に反対されたという。さらに「執行部には、改革に理解がある方もいるが、熱意は感じられなかった。提言はつぶされるか、たなざらしにされ、改革は何ら実行されない」と批判、抗議の姿勢を示すため谷垣禎一総裁らに辞表を提出した。
中間提言は、党総裁選の立候補に必要な推薦人を党所属議員の20人から5%(現有議席なら10人)に緩和することや、党員による国政選挙候補者の予備選挙実施などを盛り込んだ。
批判の多い世襲候補については「有能な人材が世襲ということだけで排除されることがあってはならない」と容認する一方、予備選など公平性を担保する制度を構築するとした。
自民党:改革案「元首相非公認」を削除 執行部指示、塩崎委員長が辞意
自民党の党改革委員会(塩崎恭久委員長)は10日、党運営・人事への派閥の関与の排除などを盛り込んだ改革案の中間提言をまとめた。ただ、素案で検討課題に挙げた「首相経験者の次期衆院選での非公認」は、執行部の指示で事前に削除。塩崎氏が「抗議の意味を込めて」委員長の辞意を表明する騒動に発展した。改革案が棚上げされる可能性も出ている。
「議論の可能性を封じ込めるような指示が来た」。塩崎氏はあいさつで、中間報告をめぐる執行部との攻防を暴露した。
党関係者によると、塩崎氏は9日、中間報告の内容について石原伸晃幹事長らと協議するなかで、石原氏が「(現職の)首相経験者4人から了解をもらったのか」と、文言の削除を迫ったという。
首相経験者の非公認について、谷垣禎一総裁は「そういう方は結構(選挙に)強い」と消極的。ただ「偉い人から言われて曲げるようなら、党の再生はない」(平将明衆院議員)との不満もくすぶっている。【念佛明奈】
毎日新聞 2011年6月11日 東京朝刊
おそらくこうした記事は、記者が中間とりまとめ案に目を通した上で書くのではなく、何らかの発表あるいは取材に基づいて書くのだろう。
だから、毎日以外の4メディアは、ニュースソースに問題があったのだろう。
この改革案の全てに私は賛成するものではないが、こうした方向で党改革を進めない限り、自民党に明日はないだろう。
まあ私は、もはや自民党という枠組みにこだわる必要はないと考えているが。
冒頭の朝日記事に戻るが、「派閥政治は自民党に存在しない」、だから文言を削除せよという石原伸晃幹事長の言い分は不思議な話で、現在の自民党に派閥政治が存在しようがしまいが、自民党と言えば派閥政治というのが旧来からのイメージであり、それから訣別すると明記することは自民党にとって得にこそなれ決して損な話ではないはずだが。
それを削除せよとは、そう明記されると困る者が党内にいるということであり、つまりは、派閥政治が存在することを自ら認めているに等しい。
首相経験者の件にしてもそうだが、幹事長と言えば党のナンバー2のはずなのに、彼が決して実質的にはそうではないことをよく示しているエピソードだと言えよう。
政治・経済を中心とした情報サイト「BLOGOS」の編集部です。
貴ブログのエントリを転載させていただけないかと思い書き込みさせていただきました。
もしよろしければ、詳細を説明させていただきますので、
blogos@livedoor.net
までご連絡いただけないでしょうか。