トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

グリーンピース・ジャパンは窃盗罪を犯したか?

2008-05-18 17:06:06 | 事件・犯罪・裁判・司法
 引き続き、グリーンピースの鯨肉奪取について。

 miracleさんのブログによると、グリーンピースの顧問弁護士は「形式的には窃盗かもしれないが、横領行為の証拠として提出するためで、違法性はない」と話しているという。

 で、私もmiracleさん同様、「形式的も何も、窃盗は窃盗だろ」と思ったのだが、前回の記事を書きながら、まてよと思い直した。
 明白に窃盗罪に当たると言えるだろうか。

 目的が正当であったとしても、それだけで違法性は阻却されない。
 鯨肉横領を告発することが目的だったとしても、それだけで窃盗罪が成立しないというものではない。
 彼らは捜査官でもなく、もちろん裁判所の令状があるわけでもないので、なおさらである。
 また、前回述べたように、盗まれた物を盗みかえしたとしても、窃盗罪は成立する。だから、グリーンピースが言うように、仮にこの鯨肉が調査捕鯨関係者が横領した物だったとしても、だからといってグリーンピースに窃盗罪が成立しないということにはならない。

 しかし、窃盗罪が成立するには、「不法領得の意思」が必要だとされる。
 ウィキペディアの「窃盗罪」の項目に、不法領得の意思について、次のような説明がある。

《不法領得の意思
窃盗罪を含む財産領得罪一般に共通して、主観的構成要件要素として、故意のほかに「不法領得の意思」も必要であると考える説が有力である(記述されざる構成要件、判例・通説)。

不法領得の意思とは、判例及び通説においては、①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振る舞い、②その経済的用法に従い利用又は処分する意思をいう。なお、学説上、いずれかのみを必要とする説、両者とも不要とする説もあり、争いがある。

①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振舞う意思は、解釈上不可罰とされる使用窃盗(他人の物の無断使用)との区別のために必要とされる。すなわち、この要件を必要とする説は、使用窃盗の場合は財物を恒久的に自己の物とする意思に欠けるので、窃盗として処罰されないとする。逆に、この要件を不要とする説は、使用窃盗の不可罰性は可罰的違法性の欠如によって説明できるとする。

②経済的用法に従い利用又は処分する意思は、別罪である毀棄罪(器物損壊罪など)との区別をするため必要とされる。すなわち、この要件を必要とする説は、窃盗にせよ器物損壊にせよ、被害者にとっては財物の利用価値を毀損される点で違法性が同等であるにもかかわらず、窃盗罪が器物損壊罪(法定刑は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)よりも重く処罰されることの根拠は、窃盗罪にはその物から経済的価値を引き出そうとする意思があり、道義的により重い責任非難に値する、という点に求めるほかないと考える(道義的責任論を前提とする)。

不法領得の意思が要件とされる結果、それが欠ける場合(例えば、路上に停車されていた自転車をほんの短時間だけ乗り回すがすぐに返還するつもりの場合や、いやがらせ目的で他人のパソコンを別の場所に隠すつもりの場合)は、窃盗罪は成立しないこととなる。ただし、判例において、各々の意思を広範に認める傾向にあるため、結果的として、不法領得の意思が不要であるとの説と大差がなくなっている。》

 今回の件で、グリーンピースには不法領得の意思があったと言えるだろうか?
 鯨肉の経済的用法とは、当然食べることだろう。また、その目的で売却することだろう。
 これがグリーンピースではなく、単に食べるつもりで、あるいは転売するつもりで奪取したのなら、間違いなく窃盗罪は成立するだろう。
 しかし、グリーンピースの目的は、あくまで調査捕鯨における鯨肉横領の追及にある。今回の鯨肉はその物証とするために奪ったにすぎない。

 ただ、グリーンピースは奪った鯨肉を食べたと聞く。これはおそらく、間違いなく鯨の肉であるかどうかの検証ということなのだろうが、果たして食べる必要があったのか、多くの論者同様私も強く疑問に思う。
 しかし、この食べる行為は、一般に鯨肉を食品として食べるのと、当然意味合いが異なるだろう。食べたことをもって、不法領得の意思があったと主張するのも苦しいように思える。

 一般人にとっては単に食べたり転売したりする目的で奪おうと考えることが不法領得の意思だと言えようが、グリーンピースの場合は、鯨肉であることを検証して告発することが目的なのだから、その目的に沿って奪おうと考えることをもって、不法領得の意思であるという論法も成り立つかもしれない。これもやや苦しいように思えるが。

 こう考えると、現時点で、間違いなく窃盗罪が成立するとスッパリ断言できる事案ではないように思えるのだが、どうだろう。

 私は別にグリーンピースを擁護しているのではない。今回の行為は強く批判されるべきだ。
 窃盗罪が成立しなくとも、食べたことにより器物損壊罪が成立することは免れないだろう。
 奪取した手段如何によっては、建造物侵入罪にも問われることになるだろう。
 ただ、不法領得の意思という点から見て、窃盗罪が成立すると簡単に言い切れるのか、疑問に思えるだけだ。

 前回触れたKABUさんも、法律のプロなら、こういう点に着目すべきではないのかな。

 しかし、今回のような件が窃盗罪に当たらないとしてしまうと、さらに同種の行為を誘発しかねないから、警察や検察や裁判所は、何とか窃盗罪成立に持ち込もうとするんじゃないだろうか。

(関連記事 「不法領得の意思」について補足

(関連記事2 やられたか


あるグリーンピース批判の記事を読んで

2008-05-18 14:37:38 | ブログ見聞録
 最近、Yahoo!ブロガーのKABUさんという人物を知り、ちょっと気になっていた(ブログは「松尾光太郎 de 海馬之玄関BLOG」)。
 昨日、そのブログを見てみると、Jodyさんという方のブログからの転載記事「緑のテロリスト」が掲載されていた。
 例の、調査捕鯨における鯨肉横流し疑惑を追及するためにグリーンピースが配送業者から荷物を奪取した件を批判する記事である。

 そのコメント欄を読むと……このKABUさん、なんだか妙なこと書いてるなあ。

 Jodyさんの、

《盗んだ上に、食べてしまう・・・。
最低の人間ですね。
小学生でも分かります。
間違いなく窃盗罪です。

法務大臣!
コメントを!》

とのコメントに対し、KABUさんは、

《盗んだ以上、その後、食べようが捨てようが、その後の行為は「不可罰的事後行為」と言いまして、窃盗罪の量刑には影響を与えないのですが、まー、世間はそうは受け取らんですわな。本当、馬鹿の上に下品。ひっきょう、教養がないの一言ではないでしょうか。》

とコメントしている。

 不可罰的事後行為とは、その行為を処罰することができないというだけにすぎない。量刑に影響を与えないとは限らない。

 たしかに、窃盗罪により得た物を、その犯人が食べたり捨てたりしても、さらに器物損壊罪が成立することはないとされている。それは、窃盗罪が、占有権に対する侵害ととらえられているからだ。
 占有権とは、その物を占有、つまり事実上支配していることにより発生する権利をいう。所有権と異なり、不法行為による占有であっても占有権は発生する。だから、ある物を盗まれた被害者が、その物が加害者の家にあることを知り、そこに乗り込んで物を取り返したとしても、それは窃盗罪を構成する。
 で、占有権とは、その物に対する支配権であるから、その物をどうしようが占有権者の自由ということになる。だから、その物を食べようが捨てようが、器物損壊罪は構成しない。
 というのが、わが国の刑法の通説・判例であると聞く。

 ただ、被害が回復しうるかどうかというのは、量刑を決める上での重要な判断材料と成り得る。
 仮にグリーンピースがこの鯨肉を完全な形で保管していたなら、グリーンピースが窃盗罪に問われた場合、それが被害者に返還されることになるだろう。それは、今回のように食べてしまった場合よりは、グリーンピースに対して有利な情状としてはたらくだろう。
 だから、「盗んだ以上、その後、食べようが捨てようが」「窃盗罪の量刑には影響を与えない」というKABUさんの主張は誤っている。
 「世間はそうは受け取らん」のはもちろん、司法当局もそうは受け取らないだろう。

 ところで、何でここに不可罰的事後行為の話が出てくるのか、私にはよくわからない。
 Jodyさんがコメントで、「盗んだ上に、食べてしまう・・・間違いなく窃盗罪と器物損壊罪です。」とでも述べているのなら、KABUさんが、いやそうじゃなくて、器物損壊罪は成立しないんだと述べたくなるのはわかる。
 しかし、そうではない。
 KABUさんは、ただ自分の知識をむやみに披露しているにすぎない。

 もう一点。

《不法侵入に窃盗をし鯨肉を食べ、そして妨害(テロ活動)
そして驚いたのがこれらを正当化すること。

あぁ~監獄ぶち込んでやりたいわ。》

というラウルさんのコメントに対し、KABUさんは、

《ラウルさん>

窃盗罪が成立する場合には、「不法侵入」は窃盗罪に「吸収」されますので、刑法的(刑法の罪数論的)には彼等の行為は「1罪」になります。また、「鯨肉を食べる行為」は上で述べたように「不可罰的事後行為」として新たな犯罪にはなりません。》

と述べている。

 たしかに、そのとおりだ。
 刑法では、

第54条 一個の行為が2個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

とされており、侵入して盗んだ場合、建造物侵入罪と窃盗罪はこの手段・結果の関係にあるので、「最も重い」窃盗罪で処罰される。
 ただ、裁判などでの罪名としては、建造物侵入罪と窃盗罪の2つの罪名が表示される。処断刑としては1罪だということだ。
 また、窃盗罪だけで処断されるからといって、建造物侵入罪は、あってもなくても同じなのかというと、当然そんなことはない。その分の悪質性も情状面で考慮される。

 で、それがラウルさんのコメントと何の関係があるのだろう。
 ラウルさんは何も建造物侵入罪と窃盗罪の2罪で処断されるべきだと唱えているのではない。ここに罪数論の話を持ち出す必然性が理解できない。
 これも、先のコメントと同様、ただ単に、自分の知識を披露したいだけに思える。
 こういう話をわざわざ人様のコメントに対して持ち出すというのは、いったいどういう神経をしているのだろうか。
 

 KABUさんは法律のプロを自任している方だと聞く(http://stachyose.blog31.fc2.com/blog-entry-8.html や http://blogs.yahoo.co.jp/zombiepart6/41818199.html のコメント欄参照)。
 プロとは果たして、こういう知識の使い方をするものなのだろうか。

 また、こんなコメントもある。

《「不可罰的事後行為」については上で書きましたので、海馬之玄関らしい抽象論を一つ。

思うに、テロリスト集団グリーンピースの頭の中には(というか頭ではわかっているけれど、感覚的には)「調査捕鯨は科学的研究のためのものであり、そこで得られた鯨肉を販売したり食べるのは脱法行為だぁー」という意識があるように思うのですよ。だから、鯨類研究所の正規のライン以外で鯨肉が世の中(=捕鯨船外)に出るのは「違法」だ、と。これは「混獲」(トロール網とかに他の魚と一緒に鯨が取れるケース。尚、鯨は「魚」ではありません!)の鯨肉が市場に出回るのを「違法」と感じる意識にも通じる。実は、IWCの取決めでも国内法でも(DNA資料の収集と保管は義務付けられますが)これは全くの合法行為。こんな感覚のずれが、今回のテロリスト集団グリーンピースの「自爆テロもどきのお笑い」の基底には横たわっている気もします。》

 主張してもいない「意識」を勝手に何だかんだと推測されて、あれこれ言われては、グリーンピースも迷惑なことだろう。