引き続き、グリーンピースの鯨肉奪取について。
miracleさんのブログによると、グリーンピースの顧問弁護士は「形式的には窃盗かもしれないが、横領行為の証拠として提出するためで、違法性はない」と話しているという。
で、私もmiracleさん同様、「形式的も何も、窃盗は窃盗だろ」と思ったのだが、前回の記事を書きながら、まてよと思い直した。
明白に窃盗罪に当たると言えるだろうか。
目的が正当であったとしても、それだけで違法性は阻却されない。
鯨肉横領を告発することが目的だったとしても、それだけで窃盗罪が成立しないというものではない。
彼らは捜査官でもなく、もちろん裁判所の令状があるわけでもないので、なおさらである。
また、前回述べたように、盗まれた物を盗みかえしたとしても、窃盗罪は成立する。だから、グリーンピースが言うように、仮にこの鯨肉が調査捕鯨関係者が横領した物だったとしても、だからといってグリーンピースに窃盗罪が成立しないということにはならない。
しかし、窃盗罪が成立するには、「不法領得の意思」が必要だとされる。
ウィキペディアの「窃盗罪」の項目に、不法領得の意思について、次のような説明がある。
《不法領得の意思
窃盗罪を含む財産領得罪一般に共通して、主観的構成要件要素として、故意のほかに「不法領得の意思」も必要であると考える説が有力である(記述されざる構成要件、判例・通説)。
不法領得の意思とは、判例及び通説においては、①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振る舞い、②その経済的用法に従い利用又は処分する意思をいう。なお、学説上、いずれかのみを必要とする説、両者とも不要とする説もあり、争いがある。
①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振舞う意思は、解釈上不可罰とされる使用窃盗(他人の物の無断使用)との区別のために必要とされる。すなわち、この要件を必要とする説は、使用窃盗の場合は財物を恒久的に自己の物とする意思に欠けるので、窃盗として処罰されないとする。逆に、この要件を不要とする説は、使用窃盗の不可罰性は可罰的違法性の欠如によって説明できるとする。
②経済的用法に従い利用又は処分する意思は、別罪である毀棄罪(器物損壊罪など)との区別をするため必要とされる。すなわち、この要件を必要とする説は、窃盗にせよ器物損壊にせよ、被害者にとっては財物の利用価値を毀損される点で違法性が同等であるにもかかわらず、窃盗罪が器物損壊罪(法定刑は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)よりも重く処罰されることの根拠は、窃盗罪にはその物から経済的価値を引き出そうとする意思があり、道義的により重い責任非難に値する、という点に求めるほかないと考える(道義的責任論を前提とする)。
不法領得の意思が要件とされる結果、それが欠ける場合(例えば、路上に停車されていた自転車をほんの短時間だけ乗り回すがすぐに返還するつもりの場合や、いやがらせ目的で他人のパソコンを別の場所に隠すつもりの場合)は、窃盗罪は成立しないこととなる。ただし、判例において、各々の意思を広範に認める傾向にあるため、結果的として、不法領得の意思が不要であるとの説と大差がなくなっている。》
今回の件で、グリーンピースには不法領得の意思があったと言えるだろうか?
鯨肉の経済的用法とは、当然食べることだろう。また、その目的で売却することだろう。
これがグリーンピースではなく、単に食べるつもりで、あるいは転売するつもりで奪取したのなら、間違いなく窃盗罪は成立するだろう。
しかし、グリーンピースの目的は、あくまで調査捕鯨における鯨肉横領の追及にある。今回の鯨肉はその物証とするために奪ったにすぎない。
ただ、グリーンピースは奪った鯨肉を食べたと聞く。これはおそらく、間違いなく鯨の肉であるかどうかの検証ということなのだろうが、果たして食べる必要があったのか、多くの論者同様私も強く疑問に思う。
しかし、この食べる行為は、一般に鯨肉を食品として食べるのと、当然意味合いが異なるだろう。食べたことをもって、不法領得の意思があったと主張するのも苦しいように思える。
一般人にとっては単に食べたり転売したりする目的で奪おうと考えることが不法領得の意思だと言えようが、グリーンピースの場合は、鯨肉であることを検証して告発することが目的なのだから、その目的に沿って奪おうと考えることをもって、不法領得の意思であるという論法も成り立つかもしれない。これもやや苦しいように思えるが。
こう考えると、現時点で、間違いなく窃盗罪が成立するとスッパリ断言できる事案ではないように思えるのだが、どうだろう。
私は別にグリーンピースを擁護しているのではない。今回の行為は強く批判されるべきだ。
窃盗罪が成立しなくとも、食べたことにより器物損壊罪が成立することは免れないだろう。
奪取した手段如何によっては、建造物侵入罪にも問われることになるだろう。
ただ、不法領得の意思という点から見て、窃盗罪が成立すると簡単に言い切れるのか、疑問に思えるだけだ。
前回触れたKABUさんも、法律のプロなら、こういう点に着目すべきではないのかな。
しかし、今回のような件が窃盗罪に当たらないとしてしまうと、さらに同種の行為を誘発しかねないから、警察や検察や裁判所は、何とか窃盗罪成立に持ち込もうとするんじゃないだろうか。
(関連記事 「不法領得の意思」について補足)
(関連記事2 やられたか)
miracleさんのブログによると、グリーンピースの顧問弁護士は「形式的には窃盗かもしれないが、横領行為の証拠として提出するためで、違法性はない」と話しているという。
で、私もmiracleさん同様、「形式的も何も、窃盗は窃盗だろ」と思ったのだが、前回の記事を書きながら、まてよと思い直した。
明白に窃盗罪に当たると言えるだろうか。
目的が正当であったとしても、それだけで違法性は阻却されない。
鯨肉横領を告発することが目的だったとしても、それだけで窃盗罪が成立しないというものではない。
彼らは捜査官でもなく、もちろん裁判所の令状があるわけでもないので、なおさらである。
また、前回述べたように、盗まれた物を盗みかえしたとしても、窃盗罪は成立する。だから、グリーンピースが言うように、仮にこの鯨肉が調査捕鯨関係者が横領した物だったとしても、だからといってグリーンピースに窃盗罪が成立しないということにはならない。
しかし、窃盗罪が成立するには、「不法領得の意思」が必要だとされる。
ウィキペディアの「窃盗罪」の項目に、不法領得の意思について、次のような説明がある。
《不法領得の意思
窃盗罪を含む財産領得罪一般に共通して、主観的構成要件要素として、故意のほかに「不法領得の意思」も必要であると考える説が有力である(記述されざる構成要件、判例・通説)。
不法領得の意思とは、判例及び通説においては、①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振る舞い、②その経済的用法に従い利用又は処分する意思をいう。なお、学説上、いずれかのみを必要とする説、両者とも不要とする説もあり、争いがある。
①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振舞う意思は、解釈上不可罰とされる使用窃盗(他人の物の無断使用)との区別のために必要とされる。すなわち、この要件を必要とする説は、使用窃盗の場合は財物を恒久的に自己の物とする意思に欠けるので、窃盗として処罰されないとする。逆に、この要件を不要とする説は、使用窃盗の不可罰性は可罰的違法性の欠如によって説明できるとする。
②経済的用法に従い利用又は処分する意思は、別罪である毀棄罪(器物損壊罪など)との区別をするため必要とされる。すなわち、この要件を必要とする説は、窃盗にせよ器物損壊にせよ、被害者にとっては財物の利用価値を毀損される点で違法性が同等であるにもかかわらず、窃盗罪が器物損壊罪(法定刑は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)よりも重く処罰されることの根拠は、窃盗罪にはその物から経済的価値を引き出そうとする意思があり、道義的により重い責任非難に値する、という点に求めるほかないと考える(道義的責任論を前提とする)。
不法領得の意思が要件とされる結果、それが欠ける場合(例えば、路上に停車されていた自転車をほんの短時間だけ乗り回すがすぐに返還するつもりの場合や、いやがらせ目的で他人のパソコンを別の場所に隠すつもりの場合)は、窃盗罪は成立しないこととなる。ただし、判例において、各々の意思を広範に認める傾向にあるため、結果的として、不法領得の意思が不要であるとの説と大差がなくなっている。》
今回の件で、グリーンピースには不法領得の意思があったと言えるだろうか?
鯨肉の経済的用法とは、当然食べることだろう。また、その目的で売却することだろう。
これがグリーンピースではなく、単に食べるつもりで、あるいは転売するつもりで奪取したのなら、間違いなく窃盗罪は成立するだろう。
しかし、グリーンピースの目的は、あくまで調査捕鯨における鯨肉横領の追及にある。今回の鯨肉はその物証とするために奪ったにすぎない。
ただ、グリーンピースは奪った鯨肉を食べたと聞く。これはおそらく、間違いなく鯨の肉であるかどうかの検証ということなのだろうが、果たして食べる必要があったのか、多くの論者同様私も強く疑問に思う。
しかし、この食べる行為は、一般に鯨肉を食品として食べるのと、当然意味合いが異なるだろう。食べたことをもって、不法領得の意思があったと主張するのも苦しいように思える。
一般人にとっては単に食べたり転売したりする目的で奪おうと考えることが不法領得の意思だと言えようが、グリーンピースの場合は、鯨肉であることを検証して告発することが目的なのだから、その目的に沿って奪おうと考えることをもって、不法領得の意思であるという論法も成り立つかもしれない。これもやや苦しいように思えるが。
こう考えると、現時点で、間違いなく窃盗罪が成立するとスッパリ断言できる事案ではないように思えるのだが、どうだろう。
私は別にグリーンピースを擁護しているのではない。今回の行為は強く批判されるべきだ。
窃盗罪が成立しなくとも、食べたことにより器物損壊罪が成立することは免れないだろう。
奪取した手段如何によっては、建造物侵入罪にも問われることになるだろう。
ただ、不法領得の意思という点から見て、窃盗罪が成立すると簡単に言い切れるのか、疑問に思えるだけだ。
前回触れたKABUさんも、法律のプロなら、こういう点に着目すべきではないのかな。
しかし、今回のような件が窃盗罪に当たらないとしてしまうと、さらに同種の行為を誘発しかねないから、警察や検察や裁判所は、何とか窃盗罪成立に持ち込もうとするんじゃないだろうか。
(関連記事 「不法領得の意思」について補足)
(関連記事2 やられたか)