民俗断想

民俗学を中心に、学校教育や社会問題について論評します。

玄関で靴を脱ぐ

2020-05-21 09:04:54 | 民俗学

ロックダウンした外国の都市の映像で、防護服を着た人が通りを消毒してまわるものが、何度か見られました。靴の底に菌をくっつけて家の中に持ち込むのを防ぐ、というためでしょうか。また、ワイドショーで医療の専門家が、日本人の生活習慣として、家の中に入る時に靴を脱ぐことが、感染が広がるのを防いでいると発言しているのも見ました。確かに日本では、感染防止のために道路を消毒するという発想はわかないし、実際やってもいません。海外で暮らしたことがないのでよくわかりませんが、家の入口で靴を脱ぐのは日本独自の習慣なのでしょうか。

私の教員としての初任地は木曽福島町でした。今の木曽町です。まだ学校に牧歌的な雰囲気があったころです。先輩の先生に終戦間もないころ、開田村での経験を聞きました。家庭訪問でのことです。開田の民家は軒の低い板葺きの棟造りです。接客空間は土間に面した囲炉裏でした。家の入口を入ると中は薄暗く、囲炉裏までの間に段差がないのでどこで靴を脱いだらいいか、わからなかったといいます。履物をはいたまま濡れた、あるいは冷えた足を囲炉裏に投げ出して温めるようになっていたのですね。馬が村の中を自由に走り回り、人間が柵を作った中で生活していたころの話です。家の内外の区別が履物でははっきりしなかったのですね。数年前、息子の赴任する上海のマンションに行ったところ、中国人の住む部屋では履物は廊下に出してありました。時代劇を見ると、旅籠に着くと、上がり框でわらじを脱がせて足を洗ってくれる場面がありますね。足を洗うというのは、まさにそれまでの心身の汚れを落とすという象徴的な行為だったのかもしれません。

我が家では、バリアフリーの集合住宅なので、玄関に内外の段差がありません。うっかりすると、土足で中に踏み込んでしまいます。事実、息子は靴を脱ぐのが面倒だと、履いたままで玄関に置いた鏡の前に立ったりしています。とはいえ、あくまでそれは例外的な行為で、土足のまま自分の部屋に入って生活することはありません。生活が洋風化したといっても、玄関で土足を脱ぐという習慣はなくなっていません。さて、これから先はどうなるでしょうか。


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