民俗断想

民俗学を中心に、学校教育や社会問題について論評します。

高橋ユキ著『つけびの村』(晶文社)読了

2020-01-24 11:32:58 | 読書

読み始めてから二ヵ月ほどして、ようやく読了。その間に、雑誌『信濃』1月民俗学特集号の編集、いき出版社から依頼された写真集の写真の解説、そして昨年末の義母の葬儀などがあり、ポツポツと読んでいてようやく読み終わりました。山口県で起こった山奥の村の連続放火殺人事件のルポです。猟奇的な事件ですが、ある面閉鎖されたムラの民俗誌としても読めるのではないかと思い購入しました。予想したような内容でしたが、噂の充満するムラ社会というのは実感としてよくわかります。今はそんなことはないでしょうが、少し前までは、他所の家の冷蔵庫の中にある物まで知っている、知られていると田舎ではいわれていました。あすこの家ではごはんに醬油をかけて食べているとか、だれそれの父親は違う家の男だとか、誰それは他所の家の物を何でももってきてしまうとか。

小さなムラで5人もの隣人を殺した男は、一度は都会に出てまじめに働きお金を稼いだが、親の面倒をみるために生まれ故郷のムラに戻ってから周囲との人間関係に軋轢が生じて凶行に及ぶ。男に妄想性障害という善悪の判断ができないほどの障害があったかどうかは、判断の分かれるところのようです。私がひっかかったのは、都市的生活になじんだ男がムラに戻ってきて起こした犯罪だということです。つまり、いったん都市的人格、人格のある部分だけで対人関係を形成するのに慣れた人が、田舎に戻って全人格での対人関係を求められて適応できず、もとからあった障害を悪化させてしまったのではないかと考えられないかということです。都市の暮らしと田舎の暮らし、そこにおける人間としてのありかた、自己認識の違い、対人関係の結び方の違い、そんなことをもう少し誰にも理解してもらえる言葉でまとめられないか。時間ができた今、そんなことを考えています。