ローティの教育論―ネオ・プラグマティズムからの提言柳沼 良太八千代出版このアイテムの詳細を見る |
☆東浩紀さんや北田暁大さんなど、1971年生まれの現代思想家・社会学者が共有する知識人の一人がリチャード・ローティ。ジョン・ロールズとともにポストモダニズムをどう越えるかという視点で、ローティの思想はよく参照される。
☆学校の法化現象のリスクマネジメントを説く坂田仰さんも、ローティの思想の影響を受けたと語っている。
☆しかし、今まで教育学そのもののフィールドで、ローティの思想が直接語られることはなかったのではないか。今回、1969年の柳沼良太氏が語ったということは、やはりローティは時代を代表する精神なのであろう。
☆さて、システム論ではルーマンの教育論が語られて久しいし、脳科学や心理学の学習理論ではすでにハワード・ガードナーを中心とするグループが語っている。
☆ポストモダンのフィールドでは宮台真司氏が教育論を語っている。そして今回ネオ・プラグマティズムの教育論としてローティ。
☆これで、多様なパラダイムの思想を基盤とするそれぞれの教育論が出揃ったことになる。
☆ただし、柳沼氏のローティ論は、注意して読まないと、新学習指導要領の正当性に関してローティがお墨付きをだしているように読めなくもない。もちろん、ローティが意味する「社会化」とか「個性化」という概念は、日本の教育現場に浸透している文脈とはずいぶん違う。「暗記」ということ自体とってもそうである。
☆基本的にローティの論はすべて文脈学習的意味合いがぶら下がっていて、その意味合いをまったく持っていない日本の教育学のフィールドで読んでしまうと、たいへんな誤解を招く。
☆本書は一章だけ読んで、全体像がつかめるかのようになっているが、もう少し読み進まないと、ローティの概念になじめない。そのことによるローティの教育論のしたたかな戦略の見落としのリスクがある。
☆改良主義的左派で、リベラル・アイロニストの意味合いを故意にソフトにソフトに紹介している柳沼氏の戦略は何だろう。リフォメーションは確かに改良だが、宗教改革もまたリフォメーションである。そんなにソフトではないはずなのだが・・・。ともあれ、そこまでは本書から推察するのは難しかった・・・。